二次短編小説置き場ブログ支部byまちゃかり

主にウマ娘の短編を投稿してます。基本的にあるサイトからの自作転載となります。

パフェが食べたいヴィブロスと追いかけるヴィルシーナ

◇先着250名限定『爆弾カロリーパフェ』を巡って、とある姉妹が高次元な追いかけっこしていた。

「せーの! 触ったら逮捕〜! パフェに手を♪ お、姉、ちゃん、ごめんなさ〜い!『ごめんなさい』が聞こえない〜? え〜! 粛正! パフェ神! フルーツモリモリレクイエム〜☆」

「待ちなさーい、ヴィブロス! 貴方、明日レースでしょォォォ!」

 ぬかった。ヴィブロスのトレーナーさんと私のトレーナーさんの三人でヴィブロスを監視してたのに、一瞬の隙を突かれて逃亡を許してしまった。

 マズい、非常にマズい。あの『爆弾カロリーパフェ』がヴィブロスのお腹に収まったら、明日のレースに支障をきたすかもしれない。けど今ならまだ間に合う。ヴィブロスが爆弾を食べる前にお姉ちゃんである私が止めなきゃ。

 そんな覚悟も無常か。ヴィブロスを追いかけている内にとうとうパフェ屋へ迫ってきていた。初動で出遅れたせいでヴィブロスと私の間には未だ距離がある。詰みか……

「ん、あの見覚えのある2人がパフェ屋の席に座ってる……私達がコーディネートした服を着てるシュヴァルと義弟(シュヴァルトレ)くんじゃない!」

 どうやら渡に船が私に巡ってきた様だ。この二人と協力すればヴィブロスを止めれるかもしれない! 私は声の限り力の限り二人に向けて叫んだ。

「シュヴァルー! ヴィブロスの爆弾(カフェ)を止めてぇぇぇ!」(圧倒的言葉足らず)

「えっ、姉さん……? ヴィブロス……?」

「爆弾だと!? 伏せろォォォ、シュヴァルゥゥゥ!」

 私の叫びでシュヴァルの存在を知ったのかヴィブロスはシュヴァル達に突っ込んでいく。ほぼ同時のタイミングで何故か義弟くんがシュヴァルを抱えてテーブルの下へ消えていく……

「嘘っ……」

 ヴィブロスの目の前には手付かずの『爆弾カロリーカフェ』が二つ。待って、お願いよ。食べないでぇぇぇ! 願いは虚しく、ヴィブロスは躊躇なく向かっていった。

 

 

 

「店員さん! シュヴァち達が食べてる『爆弾カロリーカフェ』をください☆」

「これが最後の一個となりまーす!」

 シュヴァルのカフェを食べてしまうという私の予想が外れた。ヴィブロスはシュヴァル達をスルーしてそのままパフェ屋のレジへ直行していた。

「あくまで正攻法なのねヴィブロス! 良くも悪くも純粋で助かったわ。これならなんとかなる!」


           ◇


「せめてこのパフェは明日のレース後に食べなさい。いい?」

「ええ〜生殺しじゃん……」

「落ち込まないでヴィブロス。楽しみは後でとか言うじゃない。それに経験上、レース後に食べるパフェは絶品なのよ」

「ウーン、そうなのかな〜。お姉ちゃん……」

 渋々だけどヴィブロスは納得してくれた様だ。私はひどくホッとした。トレーナーさんとヴィブロスのトレーナーさん。私、ちゃんとお姉ちゃんを遂行したよ……

 

「ト、トレーナーさん……いきなりこんな、抱っこ……ウゥッ」

「……爆弾は?」

シュヴァル「契約解除ドッキリなんてするもんか!」

「はぁはぁ、ダイヤさん……仮に僕がトレーナーさんに契約解除ドッキリしたとしてなんになるんだ」

「上手くいけばトレーナーさんと良い雰囲気になって、男女の関係へ名実共になれちゃいます!」

「本当に?」

「無い。100%無い。それは断言できます!」

 その言葉を聞いて僕は再び走り出した。瞬時に反応して追いかけてくるダイヤさん。

「はぁはぁ、どういうこと? それじゃさっきの男女関係ウンタラカンタラは何……? 発言が矛盾してるよ?」

「そもそもシュヴァルちゃんにやらない選択肢なんてないんですよ。今もほら、カメラが回ってますし。最近は視聴者も刺激を求めてるんです!」

 誰か助けて……僕は只今、ハイライトオフダイヤさんに付き纏われています。しかもテレビで使うようなカメラを僕に向けながら余裕のニコニコ顔で追いかけてくるし、怖いよ。そもそも他にも適任者一杯いるはずなのに、なんで僕なんだ?

「シュヴァルちゃん。貴方も契約解除ドッキリして私達の仲間になりましょうよー。キタちゃんは本当に契約解除されかけたけど、楽しいですよー! 一緒に契約解除されないジンクスを破りっましょー!」

 ニコニコ顔なのにダイヤさんの目が笑ってない……! 捕まったら僕もああなっちゃうのか? 逃げなきゃ……

「悪夢しかない提案やめてください……! なんですか、人の心捨てたんですか!?」

「人の心なんか元からないよ。ジンクス破りと下心はありますけどね」

「そうくるか。このクレイジーダイヤモンドめ」

「失礼ですね。探究心ですよ」


          ◇


 道中ダイヤさんの圧力に晒されて体力の限界は近いけど、結果的にはなんとか魔の手から振り切った。多分、ダイヤさんが担いでたあのカメラが無ければ、きっと追いつかれてただろう。

「疲れた……早くトレーナーさんに会いたい」

 愚痴を溢しながらトレーナー室へ暫く歩を進めていた僕。すると反対側から見慣れた顔が見えてきて……

「あっ、キタさん……」

「……シュヴァルちゃん」

 ここにきてキタさんとバッタリ出くわしてしまった。よく見てみると目の下の隈が酷いことになっていて、その割には肌が無茶苦茶ツルツルで、何処となく幸せそうな表情を浮かべている。

「えっと、大丈夫ですか……?」

「大丈夫だよシュヴァルちゃん……契約解除ドッキリのお仕置きで毎晩トレーナーさんにアレなことやこれなことされて寝不足なだけだから。シュヴァルちゃんも契約解除ドッキリやってみなよ。楽しいよ」

 ええっ……キタトレさんに毎晩何されてるの? 怖いよ……結局、キタさんも契約解除ドッキリシンパだし。とりあえず、答えは決まっている。


「契約解除ドッキリなんてするもんか!」

トレーナーさんとヴィブロスが僕を置いてドバイに行っちゃった話?

 トレーナーさんは早朝くに飛行機へ乗った。今頃ドバイでヴィブロスと一緒にいるのだろう。僕は日本に置いてかれた。何回電話をかけても、折り返しの連絡すらつかなかった。

 やっぱり僕は捨てられたんだと落ち込んで落ち込んで、気晴らしに何かしようとしたけど何も手に付かない。そうこうしてるうちに、空はいつのまにか夕方模様へと変わっていってて。もう、涙も出ない。

<コンコンッ

 トレーナー室のドアから数回ノック音が聞こえてくる。今の僕にはノック音ですら耳障りだ。どうせ外にいるのはトレーナーさんじゃない。トレーナーさんは今朝旅立ったのだから。もう、僕のことはほっといてほしい。誰とも会いたくないんだ。

「シュヴァち〜? ねぇ〜シュヴァち? やっぱりここにいるよね? キタッちとかみんな探してたよ〜!」<コンコンコンッ

「……ん? ヴィブロスの声だ……今ドバイにいるはずなのに……」

 

◇中略

 

 日本に居ないはずのヴィブロスはソファに座って誰かに電話をかけている。

「あっ、お姉ちゃん。シュヴァち居たよ〜! えっ、何処にって? シュヴァちがよく使ってるトレーナー室だよ〜!」

「……えっと、ヴィブロスはどうして日本に……? 確か、トレーナーさんと一緒にドバイに行って結婚式をあげる予定じゃ?」

「えっ? 何の話?」

「……うん?」

 ヴィブロスとの会話に違和感を感じた僕は、トレーナーさんと交わした昨日の出来事を振り返ってみることにした。


           ◇


『前言ったとおり、明日の早朝でドバイに行くから。義妹であるヴィブロスの夢をアシストするんだ』荷支度を進めながらトレーナーさんはそう語っていた。確か、僕も一緒にドバイへ行くんだと柄にもなく必死に抵抗したっけ。

『今回はドバイ政府の人達にウマ娘レースの魅力を語るだけだから。別に旅行とかしないし、2泊3日で帰るよ。んっ? ドバイ女性を現地妻にしないよねって? 信頼されて無いなぁ。逆にさ、今更シュヴァル以外の女性にこのぼくが惚れると思うか?』

『アウッ』


           ◇


 そうだ。ヴィブロスのドバイ進出を助けるため、トレーナーさんは単身ドバイへ旅立ったんだ。それをいつのまにかヴィブロスと一緒にドバイへ行ったと僕は勝手に勘違いして。勝手に落ち込んでみんなに迷惑かけて……

「……僕はどっちにしてもクズだ。消えたい……」

「ま〜たバイブス下げ下げシュヴァちモードになっちゃったぁ〜。あっ、ドア開いてるよ〜!」

 ヴィブロスがドアに手を振ると、そこからキタさん達が雪崩れ込むように部屋へ入ってきた。

「シュヴァルさーん! よかったぁぁぁ、生きてた!」

「連絡も無いから心配したんだよぉシュヴァルちゃん!」

 色んな人達に抱きつかれながら、僕は激しい罪悪感に苛まれていた。今日は普段通りに授業があったのにあろうことか無断欠席、無連絡のコンボでみんなを心配させてしまったのだ。また消えたくなってきた。

「し、心配を……か、かけて……すみませんでしたぁぁぁ!」

 とりあえず今の僕に出来ることは、みんなにひたすら謝り倒すことだけだった。


◇夜


 現在ドバイに居るトレーナーさんの耳にも学園の騒動が入ってきたらしく、僕と長めの電話をすることとなった。『監視役?』の第三者ヴィルシーナ姉さんも入れて。

「ということがありまして……」

『ごめんよシュヴァル。今日は要人と会合してたせいで連絡まともに取れなくて』

「両者の話を聞く限り、やっぱり義弟くんに一切の非はないわよ。シュヴァルの勘違いというか、被害妄想が原因よねぇ、やっぱり」

 姉さんの指摘に何も言い返せない僕。姉さんは僕をチラッと見た後深くため息をついて、ボソッとある言葉を呟いた。


「愛ほど歪んだ呪いはないわね」

モフモフの世界を創るアヤベさん

「布団乾燥機を褒め称え崇めよ、モフモフ達」

 自我を持った布団乾燥機達の拍手が教会内に響き渡る。羊達は『メェ〜!』と泣き叫ぶ。訳もわからないまま巻き込まれてここに出席しているシュヴァルグラン&ダークライはこの異様な光景に困惑していた。

 程なくして、モフモフ会団長のアヤベさんは壇上に上がりマイクを握る。彼女はモフモフ羊の着ぐるみを着て自らもモフモフになっており、左脇に乾燥機を挟んでいた。

「素晴らしいッ! 素晴らしいよ! 私は今、最高な気分だわ! 布団乾燥機達がモフモフを慈しみ、敬う! 私の望む世界が、今! 目の前にある!」

「アヤベさん! 何やってんだ君はぁ!」

 アドマイヤベガが乾燥機を背に向け絶叫したその瞬間である。デカいだけのドアを蹴破って、モフモフ会の会合に真正面から乱入してきたウマ娘がいた。怒髪天状態のテイエムオペラオーである。

「オペラオー。あなたが目障りだったのよ。いつも子供扱いだ。何処にでも出て来てボス面しやがる」

「君もぉ〜ボスになったんだろ。この乾燥機の群れでよぉ」

「オペラオーーーッ!」

「『さん』をつけろよモフモフ野郎ォ!」

「私はね、この世界丸ごとモフモフにしたいの。モフモフは誰も傷つけないし、SNSを駆使して誹謗中傷もしない。乾燥機かけたらモフモフになってくれる。人やウマ娘よりよっぽど素敵な生き物なのよ。モフモフと共にあらんことを」

「モフモフの世界を創る? あながち君なら成し遂げれるかもね。現に君は世界中の布団乾燥機を操っているのだから。だからこそ、今ここで君の暴走を止めなくてはいけないんだ!」

「貴方らしい答えね。『無理に決まってんだろ』という妄言を垂れ流したどっかの理事長とは大違い。そんな理事長もモフモフ監獄送りで『モフモフ』しか喋れなくなってるだろうけど」

「……そうか。理事長は手遅れだったか。単身アジトへ乗り込んで突破口を切り開いた理事長の勇姿、無駄にはしない。アヤベさん、僕と一騎討ちで勝負しろ」

「モフモフの加護を得た私に勝てるとでも?」

「抜かせ」


 こうしてアドマイヤベガVSテイエムオペラオーの一騎討ちは三日三晩続いた。


           ◇


「モフモフのせかい……スウスウ」

「せかいのへいわを……ムニャムニャ」

 悪夢を見せるポケモンダークライは夢を見せる内容を間違えたと後悔した。モフモフな夢じゃなくて悪夢を見せたかったのにと、自責の念に駆られながら早朝頃に退散していった。

色々と手遅れなクラウントレ

 布団の上に寝転びながら外風で軋む窓を意味もなく眺めていた。不思議と退屈はしなかった。

「そういえば、こんな静かな夜を過ごすの何年振りだろ……それはそれとして眠くないなぁ。ボケっとするくらいだったら、テレビつけてみるか」

 碌に使ってないせいか埃が溜まったテレビを付けた。今の時間はニュース番組をやっている様で、昼間やってたであろうどうでもいい国会が写されていた。

 少しだけテレビつけたこと後悔。明日も早いしテレビ切ったあとさっさと寝て明日に備えよう。そう思ってた時だった。速報のテロップが俺の目に入ってきたのは。『〇〇プロ。禪院直哉Pがアイドルにセクハラか』

「セクハラかぁ……そういや理事長もその件で頭を悩ませてた。俺も他人事じゃないな」

 いい機会だ。この4年間、クラウンとの会話でセクハラ認定されそうな言動を思い返してみるか。

『……俺は君が時代を作ると思うけど』『王冠はいつだって君のものだから』『一生大切にする』『君の……その目が好きだなぁ』『君が1番、いい顔してる』

 うーむ、セクハラと言われても反論できない。余罪も多数。よう今日に至るまでクラウンに訴えられなかったな自分。

『仕方ないだろ。一目惚れだったんだから』心の瞳がそう告げる。言い訳にもならないただの本音だなと自嘲して、この夜は軽めの自己嫌悪に陥った。


◇翌日


 今朝のクラウンは何処かよそよそしい雰囲気を纏っていた。どうしたのだろうか? まあ、セクハラの件もあるし深掘りするのはやめておこう。

「よし、書けた。さあ、セクハラ検定するぞ」

 結局昨晩はセクハラ対策に頭を使って一睡もできなかった。でも成果はあった。あとは実行に移すのみ。

 一晩中考えて出した対策、それは戒めのためセクハラになるパターンを紙に書くことだ。


◇セクハラになりうる行動
執拗に食事へ誘いをかける発言
執拗にデートへ誘う発言
ボディータッチをまじえた呼びかけ
性的なことを尋ねる質問
宴会での卑わいな発言
職場での下ネタ発言
性的な噂話を広げる発言
性的な魅力をほめる発言
性別や年齢をことさら指摘する発言
外見や身体的特徴への発言
容姿や服装をいじる発言
異性に対する差別的な言葉
私生活に踏み込む発言
性的な冗談、性的ないじり
ちゃん付け、くん付け……
*引用https://roudou-bengoshi.com/harassment/sekuhara/4205/


 これを参考にして客観的に自己評価してみた。そして分かったことが一つ、少なくとも俺は『外見や身体的特徴への発言』が当てはまるのだろう。それじゃ今後は当てはまらないよう気をつけて……

 待てよ……俺は常日頃から脚の状態を確かめるため、クラウンの脚を触ったりマッサージしている。『ボディータッチをまじえた呼びかけ』該当するんじゃあないか?

 ああ、まだあるぞ。俺は事あるごとにクラウンと香港に行ったりして、なんならサトノ家の仕事手伝ってるし『私生活に踏み込む発言』アカン、踏み込みすぎてるわ。もう誰がなんと言おうとセクハラだ。大罪犯してる……

「よし、自首しよう。電話電話……警察は110番に掛ければいんだっけ? 119番だっけ?」

 

         ◇

 

 トレーナーとはなんだかんだもうすぐ四年の付き合いになる。歳をとると時間の流れが早くなるとか誰かが言っていたけれど、あっという間に四年は流れていった。

「ダイヤはもう結婚式挙げたし、次は私の番ね」

 最近は私のトレーナーのサトノ家入りを推す声も大きくなっているらしい。私としたらもうとっくの昔にサトノ家の一員だと思ってたんだけどね。

 ……よし。一応確認。結婚届の記入漏れ無し。予備用、観賞用、食用も記入漏れ無し。プレゼント箱に結婚届を梱包好呀! あとは私がトレーナー室に出向いてトレーナーにサインしてもらうだけ。

「『トレーナー! はい、プレゼントよ♪』よし、贈り物贈る感じで手渡せばいけるわね。このままトレーナー室まで一直線よ!」

 この廊下は婚約のウイニングロード。小鳥の囀り、副会長の怒声、消防車とパトカーの音が私を祝福してくれてるように騒がしく音色を奏でている。みんな、ありがとう。私、これから幸せになるわ!

 トレーナー室の扉に手をかける。深呼吸を二回繰り返して、ドアノブを捻った。


「困るんだよね。事件でも火事でもないのに通報されても。せめて自首するなら警察署駆け込めや。多分摘み出されるだろうけど」

「僕達、国民の税金で動いてるから。勘弁してよ本当に」

「ずみ゙ま゙ぜん゙で゙じだ」


 私は光の速さで扉を閉めた。見間違いかもしれないけど、消防士と警察官がトレーナーを説教している光景が見えたからだ。私は目をゴシゴシ擦って、改めて覗いた。

 無常にもさっきの光景は見間違いではなく、室内にはソファでコーヒーを嗜む警察官と消防士がいた。トレーナーは警察官に足蹴にされていた。


「なっにやってんのぉぉぉ!?」


◇その後クラトレは無事サトノ家へ婿入りした。

ぬいぐるみになったシュヴァルグラン

 朝起きたら僕はぬいぐるみになっていた。僕の隣にはぬいぐるみになっていないトレーナーさんが布団に包まって熟睡していた。

(……身動きとれない。声も出せない、どうして……)

 何故こうなったのか。ここは冷静に昨日起きた出来事を思い出すことにした。


          ◇


『このぬいぐるみがモルモット君さ! フムフム、投薬した数秒後に効果が現れだすと……』

『これでトレーナーさんのぬいぐるみを……』

『シュヴァル君〜この薬の欠点はねぇ。誰かが1分間ぬいぐるみを触ったままにしてると、何故か薬の効果が切れるようになっているんだ。ま、精々頑張りたまえよ』


          ◇


 このあと確か、タキオンさんから貰った薬を持ってトレーナーさんの自宅に向かったはず。トレーナーさんに貰った合鍵でお邪魔して。トレーナーさんと談笑したあと、マグカップに薬を入れて……そこからの記憶がない。

 今の状況を整理しよう。トレーナーさんに薬を盛ったはずだけど何故か僕がぬいぐるみになっていて……

 もしかして僕、墓穴掘っちゃった? あの時僕とトレーナーさんは、柄や色まで一緒のお揃いマグカップを使っていた。それで、間違えて僕が薬を誤飲しちゃったのかもしれない。

<ピンポーン

 しばらくして誰かがやってきたのか、玄関のチャイムがこの部屋にこだました。その音でトレーナーさんは目を覚ました。

「ファァァァ〜……そうか、シュヴァルは帰ったのか」

(僕はここにいるよ!)僕は必死に叫んだ。声が出せなかった。トレーナーさんの耳にこの叫びは届かなかった。

 現在、トレーナーさんは玄関モニターを操作している。

「それより、誰だろ。モニターモニター……」ピッ

『サトノ販売のサトノクラウンよ! 貴方がこのゲームを買ってくれたらノルマ達成なのよろしく頼むわ。今なら色んな特典が貰えるわよ』

「なんでクラウンが……いや、いらないっす」ピッ

 トレーナーさんは爆速でモニターを消した。数秒経たずに再び玄関チャイムが鳴り響いた。

ピッ

『サトノ販売よ。お話だけでもどうかしら……』

「いらないっす」ピッ


<ピンポーン

ピッ

『私達は二人で最強なのよ。だからね、このゲーム買って私と遊びましょ♪』

「シュヴァルで間に合ってます」ピッ


<ピンポーン

ピッ

『先日、強い雪の降る山の中で心優しい貴方に笠を被せてもらったキジよ。助けてもらった御礼にこの扉を開けてくれない?』

「被せてないっす」ピッ

 これ以降、サトノ販売のクラウンさんはチャイムを押すことはなかった。ていうかクラウンさん、こんな朝から何やってるんだ。

「なんだったんだ今の……てかあれ、シュヴァルの巨大ぬいぐるみ? こんなの買ったっけな……」

 どうやらトレーナーさんは僕の存在に気がついたようだ。よかった、これでトレーナーさんが僕を1分触ってくれたら元に戻れるかも!

 あれ、なんかすごい不機嫌な顔で大きな袋右手に迫ってくるんだけど……まさか僕を捨てる気……?

 いやなんとなく気持ち分かるかも。トレーナーさん視点だと朝起きたら買った覚えのない担当のぬいぐるみが部屋にあるんだ。気味悪がって捨ててもおかしくない。

(……もしかして焼却炉行きってこと!? いやだ。今から幸せになるはずなのにこんな終わりかた嫌だ! なんとか動け、動いてよ僕の身体!)

 身体を動かそうと四苦八苦してるうちに、トレーナーさんはさっさと僕を袋に入れてしまった。そのあと、トレーナーさんはスマホを取り出して誰かに電話をかけだした。

「……ん? 着信音鳴らしながら転がってるスマホ、シュヴァルのか? なるほどなるほど、繋がらないのはそのせいか。忘れて帰っちゃったのかな?」

 トレーナーさんは僕のスマホを撮ると、おそらく姉さんに写真を共有した。『ヴィルシーナに送信っと』って言ったから多分そう。

(気まぐれか分からないけど、送信したあとに僕を袋から出してくれた……焼却炉コースからは一応逃ゲッ、ッ!?!?)

 トレーナーさんは僕を袋から取り出したその瞬間、あろうことかスカートの中身を覗き始めた。

「ありゃりゃ、ぬいぐるみって黒だけじゃないのか。今のトレンドって青のフリフリなのかな?」

(あっ、そのぉ……勝負服……勝負下着ィって言うかぁ……アアア見ないでくださぃぃぃ!?)

「にしても凄い精密に作られてるなこのぬいぐるみ。モフモフだ。誰が作ったんだこんなの」

(アウッ、アヒッ。待って、モドレナクナルゥゥゥ!)

 困惑した表情で僕の色んな箇所を触り続けるトレーナーさん。知らない快楽で溺れかけている僕。

 それが終わったのは本当に唐突だった。突如、僕の身体から煙が吹き出したのだ。

「なっ!? 発火した!?」

「えっ、なにこの煙……あ、喋れる! 身体も動かせる! 元に戻ってる!」

「ファッ!? ぬいぐるみがシュヴァルになった!? どういうこと!?」

「えへへ……えへ。トレーナーさん」

「あっ、はい。シュ、シュヴァルさん(ハイライトオフ怖)」

 僕は元に戻った。トレーナーさんと離れ離れになるとか、焼却炉で焼かれることも無い。僕は今すぐ嬉しさで走り出したかった。それはそれとして……

「トレーナーさんは僕のデリカシーなとこ触ったことないよね。ぬいぐるみにはやるのに」

「そりゃあまあ、まだ世間体とかあるし……ぬいぐるみはぁ、ぬいぐるみだし」

「世間体? 婚約会場と呼ばれてる学園に所属していて、なんならトレーナーさんと僕の関係。よく世間体とか……今更。そんな言い訳はいいんで散々弄んだ責任、最後までとってくださいよ……」(掛かり)

「なんてこった。知らないうちに訳分からん展開からうまぴょいルートに入っちまった」


◇このあと、シュヴァルグランが日和ってうまぴょい未遂に終わった。

天使と悪魔のヴィルシーナ〜カップルパフェ

「おねが〜い、お姉ちゃん! 私あのカップルパフェを食べてみたいの〜!」

「でも貴方、近々大事なレースあるんでしょう? 私もそうだし」

「少しぐらい大丈夫だよ〜! ねっ? お姉ちゃん!」

 私達は現在、妹の要望で大人気パフェ屋さんに来ている。カップル限定のパフェにヴィブロスが食いついたからだ。

 私は正直、このカップルパフェを食べたくなかった。懸念点として私は、近々大事なレースに出場予定で、余計な体重増加を避けたいという思惑がある。ヴィブロスも数日後にレースだし、今の時期に食べていいものなのか?


『少しぐらい大丈夫だって。すぐにトレーニングで挽回できるわ』悪魔の私が囁いてくる。『ダメよ私! 貴方は頂点を目指し続けるウマ娘。こんなところで道草食っててはいけないの!』天使の私が現実を見せてくる。

 そうよ、天使の言った通り私は頂点を目指すウマ娘。例え可愛い妹の頼みといえど、甘い誘惑を断ち切って勝たなきゃいけないの。

ヴィブロス……やっぱりこのパフェは大事なレースが無事終わってからに」

「あ〜! シュヴァちがシュヴァちのトレーナーとパフェを食べてる〜!」

 言い終わる前にシュヴァルの特大ネタが脳天貫く青天の霹靂。

 私はヴィブロスの指差した方を急いで凝視して、己の眼を疑った。シュヴァルらしきウマ娘が今までにないぐらいの笑顔でカップルパフェを頬張っていたからだ。

「本当にあれは、シュヴァルよね?」

「うん! シュヴァちがこんな笑顔になってるの久々に見た気がするよ〜!」

 向かい合わせに座ってるトレーナーはシュヴァルに笑顔を向け、シュヴァルも照れながら微笑み返している。私の望む世界が、今、目の前にある!

悪魔『いい機会だ。二人を良い雰囲気に持ってくため、ちょっかいかけてやろうぜ!』

天使『ダメよ悪魔! 今回は私達お呼びじゃないのよ。遠くからパフェでも食べて、妹の恋の行く末を見守る。それでいいじゃない』

悪魔『黙れ天使。お前に恋愛奥手なシュヴァルに何かあったら責任取れるのか!』

天使『分からぬ。だが仮に、シュヴァルが失恋したとしても共に生きることが出来る!』

悪魔『共に生きるだと? 生ぬるい考え方だな。やはり天使よ、お前とはウマが合わん』

 私の脳内天使悪魔は程なくしてドンパチを始めた。思考放棄して即座に休戦。

 結局、私達はパフェを食べるという当初の予定を変更することなく、それに加えてシュヴァル達の様子を遠くから静観するという流れとなった。

「シュヴァち、服も気合い入ってたし〜頑張ってるよね〜」

「素晴らしい、素晴らしいよ。パフェは美味しいし妹の恋発展も美味! 早く式場予約しなきゃだわ!」

「まだあと数年早いよお姉ちゃん」

 


 このあと、ヴィブロス共々私達は太り気味になったので、ギリギリまで絞り込みトレーニングをする羽目となった。