二次短編小説置き場ブログ支部byまちゃかり

主にウマ娘の短編を投稿してます。基本的にあるサイトからの自作転載となります。

色々と手遅れなクラウントレ

 布団の上に寝転びながら外風で軋む窓を意味もなく眺めていた。不思議と退屈はしなかった。

「そういえば、こんな静かな夜を過ごすの何年振りだろ……それはそれとして眠くないなぁ。ボケっとするくらいだったら、テレビつけてみるか」

 碌に使ってないせいか埃が溜まったテレビを付けた。今の時間はニュース番組をやっている様で、昼間やってたであろうどうでもいい国会が写されていた。

 少しだけテレビつけたこと後悔。明日も早いしテレビ切ったあとさっさと寝て明日に備えよう。そう思ってた時だった。速報のテロップが俺の目に入ってきたのは。『〇〇プロ。禪院直哉Pがアイドルにセクハラか』

「セクハラかぁ……そういや理事長もその件で頭を悩ませてた。俺も他人事じゃないな」

 いい機会だ。この4年間、クラウンとの会話でセクハラ認定されそうな言動を思い返してみるか。

『……俺は君が時代を作ると思うけど』『王冠はいつだって君のものだから』『一生大切にする』『君の……その目が好きだなぁ』『君が1番、いい顔してる』

 うーむ、セクハラと言われても反論できない。余罪も多数。よう今日に至るまでクラウンに訴えられなかったな自分。

『仕方ないだろ。一目惚れだったんだから』心の瞳がそう告げる。言い訳にもならないただの本音だなと自嘲して、この夜は軽めの自己嫌悪に陥った。


◇翌日


 今朝のクラウンは何処かよそよそしい雰囲気を纏っていた。どうしたのだろうか? まあ、セクハラの件もあるし深掘りするのはやめておこう。

「よし、書けた。さあ、セクハラ検定するぞ」

 結局昨晩はセクハラ対策に頭を使って一睡もできなかった。でも成果はあった。あとは実行に移すのみ。

 一晩中考えて出した対策、それは戒めのためセクハラになるパターンを紙に書くことだ。


◇セクハラになりうる行動
執拗に食事へ誘いをかける発言
執拗にデートへ誘う発言
ボディータッチをまじえた呼びかけ
性的なことを尋ねる質問
宴会での卑わいな発言
職場での下ネタ発言
性的な噂話を広げる発言
性的な魅力をほめる発言
性別や年齢をことさら指摘する発言
外見や身体的特徴への発言
容姿や服装をいじる発言
異性に対する差別的な言葉
私生活に踏み込む発言
性的な冗談、性的ないじり
ちゃん付け、くん付け……
*引用https://roudou-bengoshi.com/harassment/sekuhara/4205/


 これを参考にして客観的に自己評価してみた。そして分かったことが一つ、少なくとも俺は『外見や身体的特徴への発言』が当てはまるのだろう。それじゃ今後は当てはまらないよう気をつけて……

 待てよ……俺は常日頃から脚の状態を確かめるため、クラウンの脚を触ったりマッサージしている。『ボディータッチをまじえた呼びかけ』該当するんじゃあないか?

 ああ、まだあるぞ。俺は事あるごとにクラウンと香港に行ったりして、なんならサトノ家の仕事手伝ってるし『私生活に踏み込む発言』アカン、踏み込みすぎてるわ。もう誰がなんと言おうとセクハラだ。大罪犯してる……

「よし、自首しよう。電話電話……警察は110番に掛ければいんだっけ? 119番だっけ?」

 

         ◇

 

 トレーナーとはなんだかんだもうすぐ四年の付き合いになる。歳をとると時間の流れが早くなるとか誰かが言っていたけれど、あっという間に四年は流れていった。

「ダイヤはもう結婚式挙げたし、次は私の番ね」

 最近は私のトレーナーのサトノ家入りを推す声も大きくなっているらしい。私としたらもうとっくの昔にサトノ家の一員だと思ってたんだけどね。

 ……よし。一応確認。結婚届の記入漏れ無し。予備用、観賞用、食用も記入漏れ無し。プレゼント箱に結婚届を梱包好呀! あとは私がトレーナー室に出向いてトレーナーにサインしてもらうだけ。

「『トレーナー! はい、プレゼントよ♪』よし、贈り物贈る感じで手渡せばいけるわね。このままトレーナー室まで一直線よ!」

 この廊下は婚約のウイニングロード。小鳥の囀り、副会長の怒声、消防車とパトカーの音が私を祝福してくれてるように騒がしく音色を奏でている。みんな、ありがとう。私、これから幸せになるわ!

 トレーナー室の扉に手をかける。深呼吸を二回繰り返して、ドアノブを捻った。


「困るんだよね。事件でも火事でもないのに通報されても。せめて自首するなら警察署駆け込めや。多分摘み出されるだろうけど」

「僕達、国民の税金で動いてるから。勘弁してよ本当に」

「ずみ゙ま゙ぜん゙で゙じだ」


 私は光の速さで扉を閉めた。見間違いかもしれないけど、消防士と警察官がトレーナーを説教している光景が見えたからだ。私は目をゴシゴシ擦って、改めて覗いた。

 無常にもさっきの光景は見間違いではなく、室内にはソファでコーヒーを嗜む警察官と消防士がいた。トレーナーは警察官に足蹴にされていた。


「なっにやってんのぉぉぉ!?」


◇その後クラトレは無事サトノ家へ婿入りした。