二次短編小説置き場ブログ支部byまちゃかり

主にウマ娘の短編を投稿してます。基本的にあるサイトからの自作転載となります。

ぬいぐるみになったシュヴァルグラン

 朝起きたら僕はぬいぐるみになっていた。僕の隣にはぬいぐるみになっていないトレーナーさんが布団に包まって熟睡していた。

(……身動きとれない。声も出せない、どうして……)

 何故こうなったのか。ここは冷静に昨日起きた出来事を思い出すことにした。


          ◇


『このぬいぐるみがモルモット君さ! フムフム、投薬した数秒後に効果が現れだすと……』

『これでトレーナーさんのぬいぐるみを……』

『シュヴァル君〜この薬の欠点はねぇ。誰かが1分間ぬいぐるみを触ったままにしてると、何故か薬の効果が切れるようになっているんだ。ま、精々頑張りたまえよ』


          ◇


 このあと確か、タキオンさんから貰った薬を持ってトレーナーさんの自宅に向かったはず。トレーナーさんに貰った合鍵でお邪魔して。トレーナーさんと談笑したあと、マグカップに薬を入れて……そこからの記憶がない。

 今の状況を整理しよう。トレーナーさんに薬を盛ったはずだけど何故か僕がぬいぐるみになっていて……

 もしかして僕、墓穴掘っちゃった? あの時僕とトレーナーさんは、柄や色まで一緒のお揃いマグカップを使っていた。それで、間違えて僕が薬を誤飲しちゃったのかもしれない。

<ピンポーン

 しばらくして誰かがやってきたのか、玄関のチャイムがこの部屋にこだました。その音でトレーナーさんは目を覚ました。

「ファァァァ〜……そうか、シュヴァルは帰ったのか」

(僕はここにいるよ!)僕は必死に叫んだ。声が出せなかった。トレーナーさんの耳にこの叫びは届かなかった。

 現在、トレーナーさんは玄関モニターを操作している。

「それより、誰だろ。モニターモニター……」ピッ

『サトノ販売のサトノクラウンよ! 貴方がこのゲームを買ってくれたらノルマ達成なのよろしく頼むわ。今なら色んな特典が貰えるわよ』

「なんでクラウンが……いや、いらないっす」ピッ

 トレーナーさんは爆速でモニターを消した。数秒経たずに再び玄関チャイムが鳴り響いた。

ピッ

『サトノ販売よ。お話だけでもどうかしら……』

「いらないっす」ピッ


<ピンポーン

ピッ

『私達は二人で最強なのよ。だからね、このゲーム買って私と遊びましょ♪』

「シュヴァルで間に合ってます」ピッ


<ピンポーン

ピッ

『先日、強い雪の降る山の中で心優しい貴方に笠を被せてもらったキジよ。助けてもらった御礼にこの扉を開けてくれない?』

「被せてないっす」ピッ

 これ以降、サトノ販売のクラウンさんはチャイムを押すことはなかった。ていうかクラウンさん、こんな朝から何やってるんだ。

「なんだったんだ今の……てかあれ、シュヴァルの巨大ぬいぐるみ? こんなの買ったっけな……」

 どうやらトレーナーさんは僕の存在に気がついたようだ。よかった、これでトレーナーさんが僕を1分触ってくれたら元に戻れるかも!

 あれ、なんかすごい不機嫌な顔で大きな袋右手に迫ってくるんだけど……まさか僕を捨てる気……?

 いやなんとなく気持ち分かるかも。トレーナーさん視点だと朝起きたら買った覚えのない担当のぬいぐるみが部屋にあるんだ。気味悪がって捨ててもおかしくない。

(……もしかして焼却炉行きってこと!? いやだ。今から幸せになるはずなのにこんな終わりかた嫌だ! なんとか動け、動いてよ僕の身体!)

 身体を動かそうと四苦八苦してるうちに、トレーナーさんはさっさと僕を袋に入れてしまった。そのあと、トレーナーさんはスマホを取り出して誰かに電話をかけだした。

「……ん? 着信音鳴らしながら転がってるスマホ、シュヴァルのか? なるほどなるほど、繋がらないのはそのせいか。忘れて帰っちゃったのかな?」

 トレーナーさんは僕のスマホを撮ると、おそらく姉さんに写真を共有した。『ヴィルシーナに送信っと』って言ったから多分そう。

(気まぐれか分からないけど、送信したあとに僕を袋から出してくれた……焼却炉コースからは一応逃ゲッ、ッ!?!?)

 トレーナーさんは僕を袋から取り出したその瞬間、あろうことかスカートの中身を覗き始めた。

「ありゃりゃ、ぬいぐるみって黒だけじゃないのか。今のトレンドって青のフリフリなのかな?」

(あっ、そのぉ……勝負服……勝負下着ィって言うかぁ……アアア見ないでくださぃぃぃ!?)

「にしても凄い精密に作られてるなこのぬいぐるみ。モフモフだ。誰が作ったんだこんなの」

(アウッ、アヒッ。待って、モドレナクナルゥゥゥ!)

 困惑した表情で僕の色んな箇所を触り続けるトレーナーさん。知らない快楽で溺れかけている僕。

 それが終わったのは本当に唐突だった。突如、僕の身体から煙が吹き出したのだ。

「なっ!? 発火した!?」

「えっ、なにこの煙……あ、喋れる! 身体も動かせる! 元に戻ってる!」

「ファッ!? ぬいぐるみがシュヴァルになった!? どういうこと!?」

「えへへ……えへ。トレーナーさん」

「あっ、はい。シュ、シュヴァルさん(ハイライトオフ怖)」

 僕は元に戻った。トレーナーさんと離れ離れになるとか、焼却炉で焼かれることも無い。僕は今すぐ嬉しさで走り出したかった。それはそれとして……

「トレーナーさんは僕のデリカシーなとこ触ったことないよね。ぬいぐるみにはやるのに」

「そりゃあまあ、まだ世間体とかあるし……ぬいぐるみはぁ、ぬいぐるみだし」

「世間体? 婚約会場と呼ばれてる学園に所属していて、なんならトレーナーさんと僕の関係。よく世間体とか……今更。そんな言い訳はいいんで散々弄んだ責任、最後までとってくださいよ……」(掛かり)

「なんてこった。知らないうちに訳分からん展開からうまぴょいルートに入っちまった」


◇このあと、シュヴァルグランが日和ってうまぴょい未遂に終わった。