二次短編小説置き場ブログ支部byまちゃかり

主にウマ娘の短編を投稿してます。基本的にあるサイトからの自作転載となります。

「シュヴァルは尊い! 美少女!」シュヴァル「エヘヘヘヘ」デジタル「はよ付き合え」

 ある休日。

 とある方とシュヴァルの尊みを語り合うため、音楽室に来ていた。そのとある方はデジタル先生だ。

 デジタル先生とは、とあるコミケで出会った。その時の先生は絵師顔負けレベルのヴ姉妹同人誌を売っていて、それを見つけたぼくが即決で三冊購入。そこから意気投合して、定期的に尊みを分かち合う会合を秘密裏に開いているというのが事の顛末。

「もたねえよぉ〜、なんなんあの美少女。何回も言うけど『僕』はあざとい。可愛さで理性が飛びますわ。定期的に吐き出さなきゃ決壊するわこれ……」

「溜まってますねぇ〜トレーナー殿〜! ではでは、デジたんと存分に語り明かしましょう〜!」

 ぼくがシュヴァルの愛を存分に語り明かし、デジタル先生がそれを活かして本やイラストを書いたりノートにシュヴァルのことをメモったりするという気が狂ったような光景を毎回繰り広げていた。

 今だけシュヴァル限定ウマ娘限界オタクの一人として、同志に洗いざらい尊みを放出する気分は最高のひと時であった。


           ◇

 

「クソッ、勝たせてやりてえG1勝たせてやりてえよ〜! ……入着何回か入ってる今だけどさ、シュヴァルはあくまで一位だけ目指してるから。自分ももっと頑張らねぇと」

「トレーナー殿とシュヴァルさんならきっといつかチャンスは来ますよ。でも、頑張りすぎて体調崩したら元も子もないですからね。トレーナー殿が倒れたら悲しむのはシュヴァルさんですから」

 あらかた語り終えた後、最近は自身の苦悩を話す、言わばカウンセリングみたいなこともお互いにここでしていた。自分はシュヴァル本人に言えない事かつ、あの姉妹に話すのもどうかという内容。デジタル先生は、創作スランプが主だ。

「そうだ! トレーナー殿、あたしにネタ提供頼めますか! 例えば、最近嬉しかったこととか!」

「嬉しかった事かぁ。初対面の時、まともに会話出来なかったヴィブロスと会話できるようになったことかなぁ。最近は『早く義兄ちと呼ばせてよ〜』とか、『シュヴァルを選んだなら男を決めて正式に付き合え〜!』とか言ってきたりさ」

「……ん?」

 さっきまで忙しそうにノートへ振るってたペンの動きをピタッと止めたデジタル先生。さっきのぐへへ顔はどこへやら、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような表情になっているように見えた。


           ◇


「……なるほどなるほど、ついでにヴィルシーナさん絡みのエピソード教えてくれてもいいですかね……?」

ヴィルシーナは無言で結婚届や温泉旅行券、果てにはプライベートビーチ貸し出し書類を手渡してきて大変なんだ。あと、ぼくのこと義弟呼びするようにもなった」

「妹さん、お姉さん全力で外堀埋めに掛かってますねぇ。よき、それも良き!」

 気を取り直したあたしは再びノートにネタを書き込んでいく。そういやさっきの『担当と結婚するのは珍しくないから男決めろ』という同期トレの名言、良かったなぁ。その前は『シュヴァルグランの男性観壊れてるから責任取れ』かぁ……

 デジたんから言いたいことは一つだけ。この期に及んで何でトレーナー殿はシュヴァルさんと付き合わないのか?

 話を聞く限りだと、トレーナー殿の同期達はシュヴァルさんの姉妹達と同じように関係の外堀……もはや内堀をも埋めにかかっている。あれだけ周りにアシストされてるのに何故仲が進展してないのか。少なくともトレーナー殿はシュヴァルさんが好きである。

 待てよデジたん。どうしたの、冷静な心のあたし?

 もしかしたらシュヴァルさんはトレーナー殿に恋愛感情を持ち合わせてないんじゃないか? 嗚呼、ありえるかも。シュヴァルさんはトレーナー殿よりヴィブロスさんやヴィルシーナさんにお熱で、眼中に無い可能性あるかもな。あたし的には失恋ネタも好物ですけど、イヤだなぁ……同志が悲恋に終わるなんて。

「あっ、デジたん。あれってヴィブラフォンだよね?」

 あたしの妄想の裏で、トレーナー殿は呑気にヴィブラフォンという鍵盤打楽器を触っていた。近くにあるマレットを手に持ったあと、ポンポンと音板を叩く。

「懐かしいなぁ、少しヴィブラフォン叩くか」

 その瞬間、天井からガタガタと激しい物音が鳴った。

 

◇数分前•天井裏


「えへ、えへへ……困っちゃうなぁもう……僕のこと好きすぎかよぉ……エヘヘヘヘ」

 僕は多分、人に見せられない表情になっていると思う。 その言葉を僕に直接言ってくれたらいいのにとは、今でも思う。でも今はただ、デジタルさんに感謝を。

 この際はっきりさせとこう。僕はトレーナーさんが好きだ。外内面•香り•趣味趣向全部好きだ。男性経験皆無な僕だけど、これ以上の人を見つけるのは不可能だと思う。

「……はぁ、デジタルさんじゃなくて僕に直接言ってくれたらいいのに……最近はトレーニング後の誉め殺しでも物足りなく感じてきてる。頭を撫ぜながら耳元で囁いてほしい」



 あれは一ヶ月前だった。コソコソしているトレーナーさんを成り行きでつけてみたら、僕以外の知らないウマ娘と音楽室で話してる姿が見えて、信じられなくて泣きながら部屋に逃げ帰ったのが始まりだった。その日は、色んなことを想像•絶望して部屋と心の殻に閉じこもったなぁ。デジタルさんにトレーナーさんを取られちゃったって。

 そこから二日間は絶不調だった。よく引きこもらなかったなあの時の僕と振り返るくらいには絶不調だった。タイミング悪くトレーナーさんはこの二日間会議に出席していて、忙しそうにしていた。自主練メニューを事前に渡されていたけど、僕は半分も消化出来なかった。

『シュヴァち〜……あ〜大丈夫? クマできてるよ?』『あらあら……何があったのシュヴァルゥゥゥ!?』『悩みを話してみたら楽になるよシュヴァルちゃん。あたしはシュヴァルちゃんの力になりたい』何かを察したのかみんなは僕を気にかけてくれた。

 デジタルさんとトレーナーさんの音楽室の会合を見て苦しいと、キタさんやヴィブロス、姉さん達に正直に話した。そしたらみんな、僕が引くレベルの犯罪スレスレな調査をしてくれて。特にキタさんが音楽室に盗聴器を仕込んだのは犯罪だろって思った。

 僕はキタさんが持ってきた録音を聞いた。犯罪って分かってるけど気になるし……

『先生、シュヴァル成分が足りない……会議のせいでこの二日間シュヴァルに会えてないんだ、今すぐ抱きしめたい……クソっ、ダメだって分かってるのにこの感情を抑えきれない。もう鋼の意思捨てようかな』『トレーナー殿、それはアリだ』

 それからトレーナーさんは僕の尊み(?)を約一時間語っていた。そして締めくくりは『シュヴァルと結婚してえなぁ。デジタル先生、お願いします』だった。

 正直、身体が震えた。絶望感がスッと晴れていき歓喜に満ち溢れていく。僕の一方的な片思いじゃなくて、トレーナーさんも同じ感情を抱えていて……

 その日を堺に、元々形を保てなくなっていた男性観が跡形もなく消し飛んでトレーナーさん一色に満ち溢れた。



 そして僕は今日、天井裏に潜んで会話を盗み聞きしている。例によってどっかに盗聴器設置しているので姉さん達もこの会話を聞いている。

 あの日をきっかけに僕の恋路を応援してくれる人が増えた。

 例えば、姉さんはトレーナーさんを義弟呼びするようになったし、ヴィブロスは僕とトレーナーさんをくっつけようと積極的に裏工作するようになった。キタさんは音楽室の天井の改造を手伝ってくれて。クラウンさんやダイヤさんはトレーナーさんの同期を買収する等、協力してくれる同志を増やしている。

 あとは僕がしくじらなければ……

ヴィブラフォン叩くか」

ヴィブロス叩く!?」(難聴)

 ヴィブロスは別室で姉さんと待機中のはず。もしかして乱入した? 何か悪いことしたの? ありとあらゆる可能性が頭の中で巡る。

「待って……トレーナーさん。行かなきゃ、トレーナーさんが一線超える前に……」

>メキメキメキ……バキッ!

「えっ……うそっ」

 信じられないことは立て続けに起きるとはこの事か。トレーナーさんの所に向かおうと床を蹴り上げたら、メキメキと音を立てて床が破けた。落とし穴に落ちる感じで落ちた僕はなすすべなくピアノの上に墜落した。

「音楽室の天井が崩れたぁぁぁ!? あっ、シュヴァル?」

「イテテ……あっ、トレーナーさん……」

 トレーナーさんはヴィブラフォンという楽器の前で呆然と立ち尽くしていた。ヴィブロスは居なかった。

 デジタルさんは幸せそうな顔で鼻血を出しながら倒れた。


◇中略


「引退しても僕は、ずっとトレーナーさんと一緒に暮らしたいんです……子供、作って……一緒に人生歩みたくて……その、百年後も、死んでからもずっと」

「よし、年齢的にもまずは婚約だな。一年後、結婚しよう」

 我ながら重い……割ともうヤケクソ気味だけどトレーナーさんに告白した。返答次第では生きていけないくらいのに、この期に及んでも尚上手く喋れない僕が憎……えっ?

「いいの……?」

「なにかを好きになるのに、許しを乞う必要が何処にあるんだ?」

「……本当にいいの?」

 返事を聞いた僕は思わず、トレーナーさんの身体に抱きついてオンオン泣いた。悲しみじゃない、安堵というか色んな感情がぐちゃぐちゃとなった涙だった。


「うひゃ〜〜! 両者、愛が重いですなぁ〜。うんうん、お邪魔のようなのでデジたんは退散しときますね」


◇こうしてシュヴァルグランとシュヴァルトレは片思いから両思いになった。両者、夏の日差しを受けるひまわりのような笑顔だった。