二次短編小説置き場ブログ支部byまちゃかり

主にウマ娘の短編を投稿してます。基本的にあるサイトからの自作転載となります。

シュヴァルTのモフモフ存在しない記憶

 シュヴァルグランTの朝は早い。というよりほぼ全員トレーナーは朝が早い。今日も朝練の為、彼はトレーナー室の扉を開けた。

「おはようございます……トレーナーさん」

 その部屋には先客が居たようで、シュヴァルグランという娘が大人しくソファへ座っていた。トレーナーは担当の姿を一目見るなり、急に叫び出す。

「しゅ、シュヴァルが!? 羊の着ぐるみを着てるだと!? ついでに髪の毛もモフモフだぁ!」

 毛という毛がモフモフに変わり果てた挙句、死んだ眼をしてる担当を見てトレーナーはギャップ萌え頭痛を起こした。

「触れますよねこの姿に。実はアヤベさんにモフモフされてモフモフされたんです……」

「モフモフ、モフモフ……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


◇突如、モフモフ王国王子アンネスと手を組んで猫の楽園を建国する夢を就寝中見ていたトレーナーの脳内に溢れ出した存在しない記憶。

 

◇トレーナー•D•エース


ジャパンカップに勝っただけ。世代のウマ娘達の当てウマ止まりなだけ。実にパッとしないウマ娘じゃのう。シュヴァルグランは所詮、キタサンブラックの敗北者じゃけぇ」

「取り消せよ、今の言葉ァ!」

「挑発に乗るなトレーナー•D•エース! 貴方にはシュヴァルさんのモフモフがあるじゃない! ほら、私の脇でもがいてる子は最高傑作よ!」

 トレーナーは赤犬の挑発にまんまと乗せられていた。羊の着ぐるみシュヴァルグランを担いだアドマイヤベガが的外れな論理でトレーナーを諭すものの、トレーナーの怒りは収まらない。

「シュヴァルは直向きに己を鼓舞して突き進んだ偉大な娘だ! お前にシュヴァルの何が分かる!」

「終いにゃあ姉妹たちに実力で劣ってると聞く。実に空虚なウマ娘じゃありゃせんか? トレーナーは生きる価値なし! マグマグパンチ!」

 トレーナーは赤犬に腹を貫かれた。大量に吐血して倒れそうになったトレーナーをシュヴァルグランは優しく抱き寄せた。

「シュヴァル、みんな。今日までこんなどうしようもねぇ自分を、君を中々勝たせてあげれなかったトレーナーを、愛してくれて、ありがとう……!」

 そう言い終わると、トレーナーの意識は闇深くへ沈んでいった……

 

「アヤベさん。存在しない記憶を終わらせに来ましたよ」

「シャンクスーッ!?」

「カレンです。ほら、タキオンさんの薬もそろそろ切れますし早く現実に帰りましょうよ」

「嫌よ。まだこの世界でモフモフしてないわ。むさくるしいマグマのおっさんしか見てないもの」

「知らないです」


         ◇


「トレーナーさん! 起きてくださいトレーナーさん!」

「……あれっ。たしか自分はマグマのクソ野郎に腹を貫かれて……夢だったのかな」

「よかった。トレーナーさん急に倒れたから、何か重い病気にでもかかったのかと……」

 トレーナーは存在しない記憶から目覚めた。どうやらトレーナーはシュヴァルの膝枕状態で数十分程度寝ていたらしかったのだ。

「あっ、朝練の時間……終わりかけてる」

 存在しない記憶はなんだったのか、それは誰も知らない。作者も書いてて自分で何書いてるのか分からなくなってるので、誰にも分からない。

日向ぼっことモフモフウマ娘達〜アドマイヤベガ無双

 日向ぼっこ日和なそんな日に、丘で寝転がるブライトトレーナーがいた。そんな彼に向かい合う形でハグしているメジロブライトと、野次ウマのように擦り寄ってくる猫達。

 メジロブライトは猫達に嫉妬したのか、トレーナーをハグで拘束して顔をスリスリしだした。

「猫達がやってきた……」

「ぽわぁ……」

 その隣には、猫に群がられながら熟睡しているセイウンスカイ

「ZZZ……」

 そこへ猫達目的のナイスネイチャがやってきた。程なくしてセイウンスカイの頭部へターゲットが変わる。

「少しだけなら……」

「……あ♡」

 すでに起きているセイウンスカイに気づいてないナイスネイチャは、ひたすらセイウンスカイの髪をモフモフしていた。すると、たまたま通りかかったアドマイヤベガが光の速さでナイスネイチャの背後を取る。

「ウニャァァァァァァァァ!?」

「思ったとおりだわ。この髪はやっぱりモフモフモフモフ。いつまでも触ってられるわ」

「え……? ちょっと、まさかね〜? 次は私が標的とか悪い冗談はやめてよー?」

 ナイスネイチャ、撃沈。気絶したナイスネイチャを尻目に、今度はセイウンスカイに狙いを定めたアドマイヤベガセイウンスカイはおぼつかない足取りで逃げ出したが、あっけなく捕まり髪をモフモフされてしまう。セイウンスカイは一瞬で骨抜きとされ、倒れた。

 アドマイヤベガはその後、モフモフ猫達をモフモフして満足したのかその場を去っていく。

 そこにウマ娘ちゃんのオーラを嗅ぎつけたアグネスデジタルが入れ違いでやってきた。彼女は鼻血を出して音速で昇天。星となった。

 アグネスデジタルを追いかけてやってきたのはメジロドーベル。余程切羽詰まっていたのかメモ帳を手に持ちながら現場へやってきた。必然的に目の前の光景を見て、少しばかりの罪悪感と共に、ネタ不足に悩んでいた彼女は歓喜した。

 すぐにメモ帳にペンを走らせた。

「何よこれ! ブライトとトレーナーの関係性とか、スカイさんやネイチャさんは何があったのか、考察のしがいしか無い! これは次のネタに使えるよデジたん……」

 デジタルの魂は口から血を流しながら仏様のような表情で、手を合わせて成仏しようとしていた。尊みの連続に耐えれなかったのだ。

「デジタぁぁぁン!?」

「……あれ、君はドーベルじゃあないか。何故ここに」

 ドーベルが叫んだタイミングで、メジロブライトのトレーナーが日向ぼっこから復活。猫達やブライトが引っ付いたまま起き上がり、デジタルの魂を鷲掴みで本体へと戻した。

「ドーベルさん……今日からここに棲みます!」

「正気へ戻ってデジたん!?」

 ちなみに、セイウンスカイナイスネイチャは現在も気絶中である。アドマイヤベガの代わりに猫達が彼女らのモフモフを堪能していた。

魚が釣れないそんな日。シュヴァルグラン釣りの一コマ

 今日は釣れない日なのだろう。糸を水面へ垂らして一時間。未だ僕のバケツは空だった。

 それでもさざ波の海、スズメの囀り、静かな釣り場。側から見たら恐ろしく静かな空間だろうけど、僕にとっては心地いい空間で……

 まったりゆっくり、こんな日もいいかなと思う。

 しばらくするとスマホにある通知が来た。トレーナーさんからのLINEだ。内容は、ゴールドシップさんとアグネスタキオンさんに追い回されてるから遅れるというものだった。

 何をしたらある意味学園最強な二人を敵に回せるのだろうと考えるのはさておき、まだ釣り糸に変化は無い。

 一回釣り糸を回収し、偶々隣で釣りをしていたセイウンスカイさんに目を見ると……

「スカイさん……?」

 肘ツキ横寝しながら竿を握っているセイウンスカイさんは、鼻提灯を出してスヤスヤと眠っていた。

 思えばセイウンスカイさんには、まだ僕自身レースで結果を残せてなかった頃から世話になった。この釣り場で初めて出会って、色んな悩みを聞いてくれて。


            ◇


『……いいんですよ、急がなくても』

『えっ?』

『……勿論危機感は持つことは必要だよぉ〜? でもね、自分のペースで行くことも大事。釣りと同じでさ、色んな仕掛けをして情報を集めて……最後に勝てばいいんだから』


            ◇


 感謝しても仕切れない恩人な先輩だ。少しづつ善戦というか、先頭に喰らいつけてるのも先輩のお陰でもある。まあ、それは別として……

「あの、ここで寝てたら風邪ひきますよ……?」

 浜風で風邪引いたらなのでセイウンスカイさんは起こすんだけど。

 セイウンスカイさんを引き摺って運んでいる途中に、再びスマホのLINEが動いた。内容は『ゴルシを十字架に貼り付けた関東野菜連合と仲良くなったので、もう数分で着きます』というもの。トレーナーさんは何に巻き込まれてるのだろう?

 

 そうこうしてるうちにトレーナーさんが釣り場へとやってきた。トレーナーさんの背後には、リーダーのニンジンが配下のピーマン達に命じられゴールドシップさんの貼り付けを解いている光景が見えたが、見なかったことにしようと思う。

 いや出来ないごめん気になる。

「遅れてごめんシュヴァル。せっかくの釣り日和だったのに」

「え、えっと……遅れたのは別に気にして無いですけど……何があったんですか……?」

「何がって……ああ、そういうことね。事の発端は、野菜達に自我を持たせる薬をタキオンがぼくへ手渡してきたことに始まるんだ」

 そうしてトレーナーさんの身に起きた話を、僕は釣りをしながら聞いた。ニンジンが3メガネでクラウンさんに勝負を挑んだという部分だけは、半分くらいしか内容が分からなかったけど、なんとなく面白かった。

 魚は相変わらず釣れなかったものの、今日はそういう日なのだろう。トレーナーさんと釣りという時間を共有出来て、楽しくて、そんな空間が心地よかった。それで充分だろう。

倒れたトレーナーが車輪の付いた担架で運ばれるそんな一幕

◇病院内


「走れぇぇぇ! ウマ娘の有象無象共に負けないぐらい速く走れ! 患者はあの、シュヴァルグランのトレーナーだぞ!」

「先生ピッピ、治療室は逆方向なんだけど」

 僕は医者さんとゴールドシップさんに瓜二つな看護師と一緒にトレーナーさんを担架で運んでいた。授業間の休憩中にトレーナー室へと足を運んだら、トレーナーさんが床に倒れていたのだ。運ばれている今もトレーナーさんの意識は無い。

 なんで、今朝までは元気だったのに……

「午前10時59分、臨終してない」

 居ても立っても居られなかった僕は救急車へ無理矢理乗り込み、こうして担架を運ぶ手伝いをしているのだが、さっきから医者さんの発言が紛らわしくて困る。臨終ってことばは普通、死んだ時に使うものだから。トレーナーさんは死なせないけど(半ギレ)

「○月○日午前10時61分。脈正常値、酸素濃度正常値、まだ臨終してない」

「いちいち必要かそれ?」

「走れぇぇぇ! もう少しの辛抱だ! もっとスピード上げろぉ、生前葬だ!」

「先生ピッピ、治療室は逆方向なんだけど。さっきからどこに向かってんだ? ゴルシちゃんわかんねぇ」

「うるっせぇなぁ! バイトは黙ってろ!」

「え……ここの病院って、看護師バイトなんですか……? いや、それより……バイトに緊急外来担当させてるの……?」

 トレーナーさんを運んでるそんな中、医者の人が携帯している携帯電話に通知が入り、それを医者は取った!

「あ、レースの開幕DESU!!!」

「……え?」

「今からマキシマムインパクトが出る与那国国杯の配信があるんだよ! 患者よりインパクトちゃん! 命なんてクソ喰らえ!」

「アンタに人の心とか無いんか?」

 なんてことだ、医者の人は携帯という名のガラケーに夢中となり、担架を放棄しだしたではないか。ガラケーからは、ウマ娘のレースが始まる前に流れる挿入歌が流れてくる。

 するとその音楽に刺激されたのか、トレーナーさんがゆっくりと目を覚ました!

「ああ……ライバルのレース映像を見ていたらいつのまにか寝ていたようだ。フォームやレース運びの癖とかを観察してたのに」

「目を覚ましやがりましたね。おめでとうございます退院です。ご来店、ありがとうございました」

 医者はそう言って、担架を思いっきり前方へと押した。車輪はキリキリと音を上げる。ゴールドシップさんは変な玉を取り出している。

 制御を失ったトレーナーさんを乗せている担架は下り坂でどんどんスピードを上げて、3階の窓を突き破り転落していった。

「ト、トレーナーさん!?」

 僕はすぐに窓から見下げると、トレーナーさんはゴルシ玉に乗っており、無事だった。その後トレーナーさんは、過労で倒れた罪で今日明日仕事禁止の令が学園から通達された。

トレーナーをフランスに持ち帰ったヴェニュスパークのその後〜メジロやサトノのウマ娘に狙われるトレーナーと大統領

◇前回の簡単なあらすじ 王子様系イケメンラモーヌトレーナーに脳破壊されたので告白し、意気揚々とフランスにトレーナーを持ち帰るヴェニュスパーク。それを追う婚約者メジロラモーヌ率いるメジロ家。

 

「悲しい報告をしに来たぞって、見ないうちに弟子の目のクマが酷いことになっているだと!?」

「トレーナーさん……トレーナーさんの匂いが恋しいよトレーナーさん!」

「おいおいマジかよ。君のトレーナーは身の危険が及ばぬよう私が保護してるの忘れたのか? まったく、2日会えてない程度でピーピー騒ぐな」

「ねぇ、明日には返してくれるんだよね……?」

「我が弟子のトレーナーに付き纏っていた男を尋問にかけた結果、案の定メジロの人間だった。先日の落とし穴未遂事件や注射針狙撃事件も奴等が関わってるようだ」(ガン無視)

「私……実はトレーナーさんの身体に包まってないと満足して眠れなくなったの」

「分かった分かった! 留守の間に拉致されてなければ明日に返す! まあ、セキュリティ万全の隠れ家に避難させてるから拉致関係は大丈夫だと思うがな……」

「……師匠。今隠れ家って聞こえた気がするんですけど、もしかして近々滅ぼそうと考えてるファンクラブ会員の家を使ってないですよね? 返答によったら師匠でも容赦しないですよ?」

「そんなわけないだろう。私の家だ」

「よかったぁ師匠の家で。もし会員の家だったら自我を失って暴れてましたよ!」

「独占欲が身に付いた恋するウマ娘って怖いな(絶句)」

 ヴェニュスパークは現在かなり気が立っていた。無論トレーナー関係で。

 フランスの地でもトレーナーは無自覚イケメンを現地ウマ娘にばら撒いており、次々恋に落ちる。あこがれ胸を焦がす。熱狂的な信者が大量に現れ、有志によってトレーナーファンクラブが設立される始末。

 これに対しヴェニュスパークは激怒した。『トレーナーさんは誰にも渡さない』という独占欲が根付きつつある彼女には、許可をとってないトレーナーファンクラブの設立を到底許せるものではなかったのだ。

「……せっかくの縁だ。よかったら今日隠れ家に泊まっていくかい? トレーナーもいるよ?」

「行きます!」

「食い気味だぁ。まぁどうせ君の部屋は片付ける人が居なくてゴミ屋敷と化してるのだろう? 弟子の健康のためにもここで合わせておくほうが良さそうだと判断した」

「御託は良いので早く会わせやがれください! りんご飴で飴まみれにされたくなかったら早くすんだよ師匠!」

「oh、露骨に態度急変しやがった。トレーナーを隠れ家に避難させてる関係で君とトレーナーは2日も会えてないはずだしこんな反応になるのも無理ないか」

 

 


 ある真夜中のこと、サトノダイヤモンドはとある隠れ家に1人で訪れていた。目的はある男を回収するためである。

ダイヤ「将来の旦那様♡愛しのダイヤが旦那様を保護するため直々にフランスまで来ました! 最近憎きメジロに婚約破棄を叩きつけたらしいのですから今はフリーですよね! さあ早くこの扉を開けて婚姻届にサインをしてください! そこにいるのは分かってるのですよトレーナーさん!」ドンドン!

「エヘヘ……トレーナーさんの匂い……」スリスリ

(……なんだ? さっきから玄関が騒がしい。少なくともリガントーナではないな。あの子は今日もあちこちで暗躍中のはずだし、それ以外に私が用意した隠れ家を訪れそうなやつは……)

 

 サトノダイヤモンド。彼女もまた、ラモーヌトレーナーに人生を狂わされたウマ娘の1人である。

 きっかけはトレーナーとたまたま目があったから。その瞬間一目惚れし『私の結婚相手はラモーヌトレーナーしか居ない』とダイヤは心で感じたらしい。

 しかし時すでに遅し。トレーナーは既にラモーヌによって管理下に置かれている状態だった。厳重な警護がトレーナーに対して行われてたので関係者以外誰も近づけない。

 ダイヤは遠くでトレーナーを眺めていることしかできなかった。家の力を使おうにもサトノ家とメジロ家では実績や財力が違いすぎて勝てない。どうしようもなかった。

 この頃のトレーナーはというと、見聞を広めさせるというメジロの方針により知らない留学生を指導していた。留学生が萎縮したらいけないからというトレーナーからの注文で目立った警護はされていなかったが、それでもダイヤは何者かに邪魔されてトレーナーに近づくことができなかった。

 そうして自身の無力さに毎日悔し涙を流していたダイヤ。トレーナーを諦めきれないダイヤ。けれども相手が巨大な組織で半ば諦めていたダイヤ。だか、天運は彼女を見放していなかった。

 ある日、トレーナーがラモーヌの支配とメジロから抜け出しフランスへと逃亡。

 これにより、トレーナーを手に入れる千載一遇のチャンスが棚ぼた的にダイヤへ舞い降りてきたのだ。その事実を知ったダイヤは歓喜し体が震えたという。

メジロ家に回収される前に私がフランスへ出向いて私のものにできたら……よし! フランス行きのチケット予約っと!』

 彼女は早速サトノ家親衛隊と共にフランスへと渡り、原住民や移住民を買収しながら情報収集人海戦術を繰り返して今に至る。

 

ウマ娘に人間が勝てるわけがないという名言があります。ダイヤは旦那様と一緒にこの『ジンクス』を破りたいです! さあ興味が湧いてきましたか? 旦那様♡」

(外のやつがドアを叩くたびに玄関からミシミシと嫌な音が鳴る。私がドアを抑えてないと一瞬で蹴破られて侵入を許してしまうだろう。憶測だが外にいるのはウマ娘だ。雰囲気的にもおそらく招かれざる客だろう。玄関外から聞こえてくる言語は日本語……よく分からないがかなり物騒なこと口走っているように聞こえるな。まさかな……)


「私と結婚したら〇〇〇や×××を黒服達と一緒にうまぴょいしてわっしょい(自粛)しましょう!」

メジロ家の刺客が来やがった!」(確信)

「ファァァァァ……師匠寝言煩い……」

「起きろバカたれ! 緊急事態だよ。君とトレーナーが寝泊まりしている隠れ家が奴らにバレた!」

「……ファァァァァ……ふぁっ!? え、師匠? 今隠れ家がバレたって言いました? バレたんですかここが!? なんで、この建物自体巧妙にカモフラージュされてるはずなのに!?」

「クッ、今にもドアが蹴破られそうだ。ドアは私が抑えてるから君は早くトレーナーを連れて逃げろ! 大丈夫だ。アイツを無力化した後私もすぐに追う!」

「師匠……すみません。トレーナーさんは熟睡状態だけど、師匠が時間稼ぎしてるうちに担いででも逃げないと……」

 ヴェニュスパークはフランスのウマ娘である。縁あって日本に留学していた。2週間前に祖国フランスへと戻っている。

 彼女に担がれているトレーナーは元々メジロ家のトレーナーだった。何故か人権侵害な境遇に置かれており、危うく強制結婚されかけていた所を彼女が強引にフランスへ持ち帰ったので今ここにいる。

 

「ダイヤ様のモールス信号を受信。ヴェニュスパークが裏口から逃げたらしいです。てことは裏口を張ってた俺達の前にトレーナーが来るらしいぞ」

「このウマ娘を殺せばトレーナーが無防備な状態で手に入る……」

「おい、どっちも殺すなよ。このウマ娘はフランスの宝だ。殺したら惨い報復が待っているに決まってる。撃っていいのは催眠剤入り注射針と催涙弾だけだ。よし来たぞ撃て!」

「分かってるよ。んじゃ嬢ちゃん。挨拶がわりに3連針クナイと連射催涙弾をどうぞ!」

「Hiiiiiiiiii ! Les injections tombent d'en haut ah ! Tu ne peux pas m'injecter comme ça... ohhh... !(ひいいいい! 注射が上から降ってきたぁぁぁ! 注射だけはだめなんだよぉぉぉ!)」

「暗闇で何も見えないはずなのに勘だけで避けるな!」

「ま、ウマ娘相手だと人間様じゃどう頑張っても追いつけねえし実質狙撃チャンスは一回きりなんだよな。これだから実力者や分野のスペシャリスト相手は嫌なんだ」

「二番隊、三番隊! ウマ娘がそっち行ったら狙撃しろ! サトノ家の命運を賭けトレーナーを必ず確保するのだ!」

 

 ヴェニュスパークはある日からメジロ抹殺特別組織やサトノ家親衛隊から狙われ、追手から逃亡する毎日を過ごしていた。ちなみに今回はサトノ家親衛隊が狙ってきてるようだ。

 厳密には、パークに担がれている呑気に熟睡中のトレーナーを奴らは狙っているだけなので取り巻きのウマ娘を狙う理由は特にない。

 だがしかし、パークやモンジュー諸々初恋を取られてしまったフランスウマ娘達の助けによりトレーナー奪還作戦が思うように遂行出来てないのが組織の現状である。なので最近は邪魔するウマ娘もターゲットに加え協力者の数を減らす方針で組織は動いているようだ。

(師匠……師匠なら大丈夫だと信じてる。私はトレーナーさんを守るんだ!)

 ていうか、そもそもトレーナー側にも悪いところがある。身体スペックだけでいい匂いがして性格神の王子様系イケメンだよ? 仕事も出来るしトレーナー能力もモリモリにあるってなんだ? なろう系じゃねえんだわこの世界。

 なんもかんも人を惹きつける力を持つ才色兼備なトレーナーが悪い。

 


            ◇

 

フランス大統領「エリゼ宮殿へようこそ。ミス•ヴェニュスパーク。この部屋ならサトノ家もメジロ家も手が出せないはずさ」

「大統領……はぁはぁ。私達を匿ってくれて感謝します……」

「大丈夫かい? 呼吸が不規則になっている。まずはしっかり休みなさい。これからに向けての話し合いは御仁が落ち着くまで待っても遅く無いはずだ」

 大統領の言葉を聞いた直後、ヴェニュスパークは倒れるように就寝した。目元には薄らとクマが出来ていて、彼女は最近あまり寝れて無かったように見えた。

 その様子をしばらく眺めていたフランス大統領は深いため息を吐いた。

「国の宝が、何度も転んだのだろう。傷だらけで、命を掛けて此処へ逃げてきた。万が一があったらここへ逃げてこいとは言ったが、これは想定以上に切羽詰まっていたのだろうな。なんとかしてメジロやサトノの手をフランスから引かせなければな」

「んあっ……ここは……?」

「御仁! いやトレーナー殿、違うなクソ野郎だ。やっと目を覚ましたのだなこのクソ野郎!」

「……いや誰? この感じだと夢でも隠れ家ではなさそうだ。ここはどこだ? 見慣れない場所だ。パークはパークで何処かも知らない床に寝ちゃってるしどういう状況だこれ?」

「私は大統領だファッキュー! 写真より綺麗で潰したくなるほどムカつく美形だなコノヤロー! 貴様が呑気に熟睡してる中、国の宝であるパーク殿は一睡もせずこの宮殿まで貴様を運んだのだ。夜中に、それもサトノやメジロの追手をかわしながらな!」

「えっ、まじか」

「軽っ!? 命の恩人に対しての第一声がそれ!?」

 トレーナーは呑気に欠伸をしつつ、倒れてるパークの脈を測っていた。大統領は呆然としている。

「ファァァァッ……あ〜しまったなぁ。眠気に逆らえなくて寝てしまったばかりにパークに余計な負担をかけてしまった」

「ていうか貴様はメジロ家のトレーナーだった人間だろ。なんで関係ないはずのサトノ家までこの騒動に介入してんだ。なんで事態が悪化してんだよこの野郎。お陰で、我が国の農業権限をサトノ家に取られそうになってんだけど? どうしてくれんの?」

「サトノ家のストーカーに関してはダイヤ本人に聞いてくれ。なんで関係ないはずのサトノ家が何故動き出してるのかマジで分からないんだ」

「貴様がメジロから逃亡してフランスへと渡った途端、サトノ家の動きが急に活発化し結果的にフランスの経済がめちゃくちゃになった。大人しくラモーヌと結婚していれば我が国も巻き込まれなかったのに貴様は罪深い男よ」

 大統領は徐にペットボトルの水を一気に飲み干し、空になったボトルをトレーナーに投げつけた。トレーナーは避けなかった。

 ヴェニュスパークはソファーで寝かされている。


「サトノ家も問題だが、本来の脅威メジロについてどう落とし前つけるつもりだ? 奴等は今も合法非合法問わず貴様を狙っているはずだ。例え我が国フランスのウマ娘達を排除してでもな」

メジロには先日、正式に婚約破棄の通告書を送ったんだけどね。効果なかったけど」

「昨日もよ、メジロラモーヌとやらが直接ここに乗り込んできてさ『今年の国家予算並みの金を上げるから、代わりに貴方の国が運営してるフランスクリールとかいう組織と私のトレーナーを明け渡しなさい』という契約書を私の顔に叩きつけてきやがったんだ。頭メジロの名は伊達じゃねえな」


 ウマ娘世界線のフランスは現在、経済の大部分を依存している農業と国営ウマ娘組織を日本のウマ娘名家に取られかけている状態である。

 トレーナーの身柄をどちらかに明け渡したら選ばれなかった方が怒って必ずフランスの産業を潰しにくる。

 フランスは経済かウマ娘か、どっちか捨てる選択をせざる負えなくなったわけだ。メジロを取ってウマ娘を守るか、サトノ家を取ってフランス国民を守るか。大統領は迫られていた。

 怖いだろ。これ全部、1人のトレーナーを巡ってこんなことになってるんだぜ。

「貴様が国の宝のフィアンセじゃなければ、国が客人として貴様を保護してなければ、死刑制度が廃止されてなければすぐにでもギロチンにかけてるぞこのクソ野郎。罪状は勿論、外患誘致罪だ」

「嘘だろ……別に俺はなんも問題起こしてないのに、日本だったら死刑一択の罪フランスで貰っちゃったぜ☆」

 

             ◇

 

「話はあの子から聞かせてもらったわ。この話、ワタシなら解決出来るかもよ」

「なっ!? 俺の背後に知らない褐色のウマ娘が!? 誰かの刺客……ではないようだね? 多分だけど」

「君はウマ娘三大国の宝の1人リガントーナ殿ではないか。いつからここに居たんだ?」

リガントーナ「大統領が『エリゼ宮殿へようこそ』と言った時からよ。大変ねぇ〜第三者視点から見たら面白いわよアンタ達」

 羊のような服に身を包んでいるウマ娘、リガントーナ。彼女は大統領初登場時からずっといたらしい。誰も気づかなかった。

「して、リガントーナ殿。貴方は何故ここに?」

「この騒動を終わらせに来たわ」

 

             ◇

 

 リガントーナは夜が明けそうな空の下に1人、宮殿の外に出て何かを待っていた。

「リガントーナ殿。貴方が言ってた『とっておき』とは一体……」

「すでに呼び出しております。協力者はもうすぐここに到着するでしょう」

 数刻もしないうちに、日が登り始めた海の方から伝説の竜ガルグイユと葦毛のウマ娘と人間の2人に2つのズタ袋を乗せてやって来た。ガルグイユはエリゼ宮殿の庭に着陸。葦毛は人間とズタ袋を抱えて降り立った。

ゴルトレ「久しぶりだなぁ。見ないうちに一段といい男になったな。元ラモーヌトレ!」

「アナタは……ゴルシのトレーナー!?」

ゴルシ「マダガスカル島で原住民に襲われて大変だったぜい! ゴルシちゃんの御座あるでござるぞ!」

ゴールドシップ殿!? いやそれより……なんじゃこの怪物はぁぁぁ!?」

モンジューが一方的にライバル視してたゴールドシップさんよ。ある密約を結んでアルダンとクラウンを拉致してもらったわ」

「本当はマックちゃんを連れてこうとしたんだけどな。最近阪神がアレしただろ? それ以来推し球団の布教に力を入れ始めていて手がつけられねえんだ。だから妥協してパーマを拉致してきた」

「妥協が妥協してない」

「流石凱旋門賞に出場した際、トレーナーを森に置き去りにしたお方だ。クレイジーゴルシ……」

「クラウンはたまたま近くに居たからついでに連れてきたぞ。どういう奴かは詳しく分かんねえけど多分エースみたいな扱いでも大丈夫だよな?」

 クラウンとパーマは縄で縛られていてピチピチと身体を跳ねることしか出来ていない様子。クラウンは何故私がここにと言いたげな表情で猿口を嵌められている。

「んじゃ、約束通りスペースシャトルを借りてくぜ!」

「返さなくてもいいわよ。存分に宇宙旅行を楽しんでらっしゃい」

「お、マジで!? 恩に着るぜ! トレピッピ今から月へ行くぞ!」

 当事者じゃないのに巻き込まれたパーマとクラウンに同情せざるを得ないと大統領は思った。不憫日本代表だと称したという。

「嵐のように去っていったなアイツら」

「保険としてワタシが日本に立ち寄った時に知り合った学園の優秀な科学者に一度だけ使えるテレポート剤を貰っているので。ま、都合が悪くなってもテレポート剤を使って日本に帰せばなんとかなるでしょう」

「どいつもこいつもウマ娘って拉致が常套手段なのか?」

 トレーナーは改めてウマ娘の独占欲に恐怖した。日本の失敗を教訓に、せめてフランスのウマ娘達には男性観を壊さないよう努めようと思った。だがもう何もかも遅い。ほぼみんな壊れてる。

 この時大統領は『テレポート剤とは?』とリガントーナが言及した薬に興味を持ち始めていた。

 ヴェニュスパークは起きるタイミングを逃し狸寝入りしていた。ただ、トレーナーに膝枕されて寝かされている状態のため別にまだ起きなくてもいいかと思っている。一応耳だけ覚醒させ話は聞いているらしい。

 リガントーナはパーマの猿轡を外し、苦悩を滲ませたような声でこう言った。

「手荒な真似されて可哀想な子羊達。陸に打ち上げられてピチピチと跳ねてる魚みたい。でもね。故郷を侵略さてれるのを黙って見守りたくなかったの。そうそう、今朝からモンジューが行方知らずになってる件も貴方達を使えば分かりそうだわ」

 この時のリガントーナの表情についてサトノクラウン曰く『にっこりと笑っているのに目が笑ってなかったの。なるほどね。今日が命日になるんだと本気で思ったわ。生命の危機を感じさせる程の怖さだった』と言い表したという。

「……2人には大統領である私が責任を取る覚悟で国の客人としてVIP待遇する。この子達には罪もクソも無いし。可能であればこの子らのトレーナーを呼びつけようとも思ってる」

 

       ◇舞台は客室に移った。

 

 縄を解かれ事情を聞かされた哀れな拉致被害者達は要人が使うような客室のソファーで俯きながら座っていた。

「大統領は非情になる勇気おありですか?」

「リガントーナ殿? それはどういう?」

「フランスで侵略行為を働いた両家の関係者にして令嬢をこちらは手に入れてるのです。もしこの子達が逃亡することがあれば最悪始末しなきゃいけなくなるでしょう。そうなった時、大統領は手を汚すことになります」

「勇気云々はともかくそんなこと議会が許さないだろう。非人道的行為は受け入れられんよ。非常事態宣言をしているなら別だが」

「そう、非常事態宣言をしましょう。議会に訴える時間が無駄ですし、宣言したら一時的に大統領の権限は強くなる」

「うむむ、背に腹は変えられないか。分かった。これから私は大統領の権限を職権乱用して一時的に我が国に非常事態宣言を行う。侵略行為を受けているからとか理由つければ諸国は納得するだろう」

 大統領は上手く口車に乗せられてしまった。

「クラウン……現実世界で会うのは初めてだね。まさかこんなところで会うとは思わなかった。色んな人に襲撃されてもここまで生き残れたのは君のおかげだ。本当にありがとう!」

「貴方がサトノ家に襲撃されてから色々あってオンライン上でダイヤやサトノ家の動き関連で質問したり、それに答えたりの関係性になってからまだ貴方とは会ってなかったのね。この美形は……なるほど、だからダイヤが惚れたわけか。私もトレーナーさんが居なかったらきっと貴方に夢中になってしまうでしょうね」

 完全に起きていてトレーナーの膝にちょこんと乗っているヴェニュスパークからドス黒いオーラが仄かに滲み出していた。

「あっ。ま、まぁ……貴方なんかより私のトレーナーさんには圧倒的な可愛さがあるから。私のトレーナーさんに対する愛情では負けてないわよ!」

「なんだお前……?」

「パークステイ! 最後らへんのやつは多分クラウンのトレーナーの話だ!」

 

「クラウンさん。本題に入るけど単刀直入に言うわ。サトノ家の令嬢として私達に協力して欲しいの」

「い、いやいや私は一応サトノ家だけどね? 分家だし私自身が割と落ちこぼれだから、私じゃそんなに役には立たないと思うわよ?」

「サトノ家の令嬢を攫ったことに意味があるの。安心なさい。これから役に立つわ」

「はぁ……分かったわ。数年前からダイヤの様子がおかしかったのに何もしなかったツケが返って来たのかもねこれは。どこまで力になれるか分からないけど協力させてもらうわよ」

「英断ね。さて、次は貴方よパーマさん。貴方はどうするのかしら?」

 それまで一言も喋らなかったメジロ家の令嬢が初めて口を開く。

「あ、あのぅ……この騒動、私は関係ない気がするんだけど。ただでさえ私のトレーナーさん関係でメジロ家とは距離を置いてた関係だったのでラモーヌさんの結婚問題とか知らなかったというか……」

「あら? 見境なく私達の同胞を傷つけてワタシの友人の彼氏を寝取ろうとしてる家はどこでしたっけね?」

「知っちゃこっちゃないですよ。私はトレーナーと一緒になるためにメジロは捨てる予定なんですから! それにしばらくメジロ家に関わるつもりも無かったし」

「協力してくれたら2泊3日のフランス新婚旅行券をプレゼントするわよ」

「寝取られ連中は許せません! メジロ家を潰すためありがたく協力するよ!」

「それでいいのかパーマ殿……?」

「一応定義上、寝とった側はパークの方なんだけどな。もうこの際細かいところはどうでもいいけど」

 

            ◇

 

「ま、貴方達を交渉材料にするだけだから別に手伝ってほしいことなんてないのだけどね。客人に半強制的に労働させたらいけないし。レースがないのだったらウチの練習場を使ってもいいし、レースが近々あるのだったらテレポート剤を使って帰ってもいいわ」

 そう吐露したリガントーナはある手紙を大統領に渡す。

「それと大統領。この手紙を大統領名義で学園に……」

 


◇1日後 トレセン学園にて

「たづなぁぁぁぁぁ! 驚愕っ! フランス大統領から手紙が!」

「ああ、大体予想はできていますよ。海外のニュースの情報だと、あのトレーナーを巡って両家が抗争を繰り広げてるらしいじゃないですか。それでフランスが怒ってこちらに手紙をよこしたのでしょう。学園に抗議という形で」

「急行! そんな次元の話じゃなくなってるんだ! いいからこれ読め!」

 手紙の内容はまず、メジロパーマとサトノクラウンを預かったというものだった。理由はメジロ家とサトノ家がフランスで暴れてるので見せしめ目的でらしかった。

「返してもらいたかったら、元トレーナーで争ってるメジロ家やサトノ家連中をフランスから日本に帰らせた上、トレーナーに対する接近禁止令を日本政府に宣言させろですって? 従わなかった場合、侵略行為を行ったとして宣戦布告も辞さないし両名の安否も保証しかねる……」

「恐怖!? 宣戦布告とは戦争を仄めかしているということなのか!?」

「ふむふむ、事態は私達が思ってた以上に悪化していましたね」

「た、たじゃな……ど、どうしよう!? 対応間違えたら打首獄門晒し首火刑コースだ。なんでこの手紙を読んで尚冷静なんだたずなぁぁぁ!」

「冷静じゃないとこの事態をなんとかできませんよ。この手紙も所詮脅しです。それより今は情報整理したほうがいい。理事長はこれから起きるであろう可能性を文字に起こすために使うホワイトボードを持ってきてください」

「秘書にこき使われてるようで癪だが分かった」

「まず、検討使で首相が頼りない政府がこの要求を呑むとは思えません。下手に動いて報復でもされたら嫌なのでおそらく数年は何もしないでしょう。かと言ってあの両家のフランス侵略行動は大問題で国際問題です。今すぐ誰かが介入しないと手遅れになりかねない。でも政府には期待できない。そうなったら理事長はどうしますか?」

「驚愕っ!? つまり学園の自前戦力だけでメジロサトノを止めようとたずなは言いたいのか?」

「その通りです。私の見解では対話で解決は難しいと見ています。幸い両家の戦力の大部分をフランスに注ぎ込んでおり、反対に我が戦力はシンボリ家の尽力もあり整いつつある。叩くのは今しかありません」

「挙兵っ! 挙兵するぞ! たずな! 至急戦力を掻き集めろ!」

 

 このあと、利害の一致で同盟を結んだ両家と近代兵器にあっさりと敗れたトレセン学園。その代償としてメジロサトノ連合軍に学園の実権を取られてしまう。

 トレセン学園を制圧したついでに日本政府の中枢を掌握したメジロサトノ連合軍が、勢いそのままにトレーナーと人質令嬢を救い出すためフランスを相手に戦争を引き起こすことになる。

 

 いい加減おわれ。

仮装ヘリオスとギャンブルトレーナー

 ハロウィン。東京の中心部で仮装したり、呪霊共が百鬼夜行したり、民衆が車をひっくり返したりするパーリーピーポーでデリシャスな祭りだ。


 プルルルル……ピッ。

「お前どこに居るんだよ」

「パーマートレか。3連単成立しそうな位置にいて、いいところなんだから邪魔すんな」

「今日は何の日か忘れたのか? ヘリオスも探してたぞ?」

「うっぜえなぁ。今日はハロウィンだから、どうせヘリオスも仮装で際どいもん着てるんだろ? いかにも襲ってきてくださいなって感じの……まあ、俺は今競艇場だ」

「今すぐ帰ってこい。お前の愛しのヘリオスが待ってるぞ」

「軍資金全額パーになったから歩いて帰るわ」ピッ

「また負けたのかあいつ……」


 かのトレセンではトレーナーの鋼の意志が試される日でもある。昨年は散々な結果に終わった雪辱、今年こそ耐え切ってみせる。そう意気込んでいたのだけど……


「お菓子無しのイタズラで膝枕するよ〜!」


 すまないヘリオストレ。俺は一足先に陥落した。悪魔パーマーには逆らえない。逆らわない。逆らう気力は無い。逆らう気も無い。

 

ヘリオス視点

 

 いつもの調子で突撃トリックオアトリートかまして部屋に入ったら、パマちんがパマちんのトレぴを膝に寝かせて好きピしていた。

 しまったと思った。うっかりズッ友の恋愛空間に入ってしまったから。トレーナー室を誰が使ってるのか確認してなかったウチが悪いだろう。

 パマちんは石のように固まって動かなくなっていた。膝枕状態だったトレーナーはやれやれと頭をかきながら立ち上がり、冷蔵庫の戸を開ける。


「あらら、ヘリオスじゃあないか。ちょっと待っててなお菓子をやろう」

「トレーナートレーナー。さっきお菓子無いって言ってなかった?」

「僕はパーマーにイタズラされたいからね」

 パマちんとそのトレーナーの会話を聞いて大体ことの顛末を悟った。さっきの膝枕ってイタズラだったんだ。ウチも真似しようかな。

「あっ! そういえばトレぴにまだトリックオアトリートしてなかったじゃん! とりまウチもトレピにブラりに行くっしゃないっしょ☆」

 ……そう言った手前だけど、今日ウチはトレぴを見ていない。なのでお菓子貰うついでにパマちんのトレーナーに所在を聞いてみることにした。

 とたんに深いため息を吐くパマちんのトレーナー。膝からむくりと顔を上げ、うちを憐れみの眼でガン見してきたトレーナーは、ぽつりぽつりと語りだした。

ヘリオスのトレーナーはハロウィンなのにギャンブルで金を減らしてる」

 

           ◇

 

「あいつ、軍資金使い果たしたから歩いて帰るらしい。行く前に『金を増やすのさ』と言ってたのにあの自信はどっから湧いてくるのかさっぱり分からん。あのダメ人間は」

 パマちんの膝枕に顔を埋めながら喋っているこのトレーナーも、側から見たら大分やばたんだと思う。ここが婚約会場学園だから許されてるけど、世間一般的にエグチ。

「誰がダメ人間だって? 担当の膝を堪能してるてめえが言える立場かよ」

「その声は、トレぴ☆バビッてよいしょ丸じゃん!」

 パマちんトレーナーが電話をかけて数分でトレぴが学園に舞い戻ってきた。

 反射的にウチは、バカでかい身体をしたトレぴに飛びついた。トレぴは呆れ笑いを浮かべながらも引き剥がすことはせず、パーマートレを見てこう言った。

「ふーん、二人とも相変わらずイカした衣装着てんなぁ。それはそれとして、パーマートレは今何やってんの?」

 ウチはチラッとパマちん達を見る。パマちんはどこぞのでちゅねママになっていて、そのトレーナーは赤ちゃん語しか話さなくなっていた。

「えっとねトレぴ。うん。パマちんによると、とりま赤ちゃんプレイ中」

「あーね……そっとしてやろう。こいつは鋼の意志を破壊されて抜け殻となった成れの果てだ。困ったな、金を貸してもらいたかったが、仕方ない」

「ウチが貸してあげるよ☆」

「てめえのようなガキに乞食になるほど俺は落ちぶれてねぇよ。次はパチンコかトレーナー業で一発当てるさ」

「トレーナー業ならウチの力も必要じゃ〜ん! バイブステンアゲでレースブチ釜水産☆ ウェーイ!」

 

バタンッ

「嵐のように帰っちゃった。ていうか、もしかしてヘリオスってヒモ男に捕まるタイプ……?」

「パーマーママ……バブぅ……」

激しめの音を出しても大丈夫な物件を探している新婚シュヴァルグラン達

「筋肉君と筋肉ちゃんは裏切らない! 1110、1111、1112!」

 俺はとある不動産屋で働いている、名は五十嵐筋太郎。こう見えて腹筋と結婚するぐらい筋肉が大好きだ。おっと、日課の腕立て伏せをやってたら最初のお客様がやってきたようだ。

 あれ? 男の隣にいるウマ娘、誰かに似てるな。シュヴァルグランに似てる……本人なのか? 仮に本物なら、この男とはどんな関係なのだろう。どっちみち店員の俺には関係ないことだが。

「うわ、なんか筋肉バーサーカーみたいな店員がレジに立ってんな」

「トレーナーさん……ここって本当に不動産屋だよね?」

「多分……」

 俺は空気を吸い込み腹筋を張り、ありったけのいらっしゃいをお客様へぶつけた。

「いらっしゃぁぁぁいませぇぇぇ!」

 下半身だけ筋肉がしっかりある男と、水兵帽子を被ったウマ娘は微妙そうな顔を浮かべたあと、何故か二人とも入り口で立ち止まってしまった。

 そして暫く、店内の時間が止まったかのような静寂に包まれた。


          ◇


 数分経っただろうか、痺れを切らした俺はこちらから男女へ接触を計った。どうやらこの男女は夫婦で探せる部屋を探しにきたらしいかった。

「この感じは新婚さんですね。ええ、分かりますとも。お二人とも初々しい雰囲気ですからね。それでは、どのようなお部屋をお探しでしょうか?」

「激しめのうまぴょいしても大丈夫な部屋ってありますか?」

 思いがけない不意打ちをくらい思考停止。うまぴょい? うまぴょい……いや、まさかね……?

 男が発した言葉の意味を理解するため数秒間、さらに思考を巡らせる。隣にはウマ娘の女。新婚。激しめ……

 聞き間違いか? 聞き間違いであってくれ。そうだ、あれだ。きっとうまぴょいって踊りのやつだ。激しめが引っかかるけど、そうに決まってる。ひとまずもう一度聞いてみよう。

「申し訳ありませんが、もう一度仰って頂いてもよろしいでしょうか?」

「激しめのうまぴょいしても大丈夫な部屋ってありますか?」

 聞き間違いじゃなかった。しかも食い気味だし。ええっ、今日のお客様1号目からとんでもねえの来たなこれ。

「なるほど……なるほどですね。なるほどなるほど。つまり、防音の部屋を探しているって解釈でよろしいですかね?」

「激しめのうまぴょいが出来たらなんでもいいです」

 恥ずかしげもなく涼しい顔でよくそんな事言えるなこの男!? ウマ娘の方見てみろ。さっきから一言も喋ってないし湯気が出るぐらい顔も赤くなってるから!

 そんな本音を意地で飲み込みつつ、俺は純粋な疑問を男へぶつけた。

「はぁ……まあ不動産屋からしちゃあ、売れるに越したこと無いんでいいんですけどね。まあ、私が言うのもなんですが、そういうのってホテルじゃダメなんですかね?」

「筋肉店員さん。例えばですけど、毎日ホテルに泊まる人って普通は居ませんよね?」

「そりゃあ、まあ……」

「そういう事です!」

 何がそういう事だよ。ていうか、この感じだとこの男毎日愛し合う気じゃん。

 ウマ娘相手だと常人は一瞬で搾り取られて、翌朝には干からびてしまうというのが定説なのに。気でも触れてんのか。

 あと、隣のウマ娘もなんか言えよ。夫がすごいこと言ってるよ!? って、涙目浮かべて泣きそうになってるし。多分これ、男の方がご乱心なんだろうなこれ。

「ぼくはシュヴァルと一緒に居たら落ち着くし幸せなんで、別に物件無かったらホテルでもいいんですけど。それだと流石に予算オーバーするんで、なんかないですかね?」

 ウマ娘の子、なんか急に照れ笑いというか嬉しそうな表情になったと思ったら指をモジモジしだした。何があったんだ怖いな!?

 ……もういいや。自分の仕事に集中しよう。

「はぁ……そうですねぇ。二人で住む部屋の相場よりはかなり値が張ってしまいますけど、それでもよろしいでしょうか?」

「賞金とかでお金はあるし、僕はいいと思うけど……」

 やっとマトモにウマ娘の子喋ったな。僕っ子だし、思ったよりボソボソ声だった。

「ウーン、値段張ったなぁ。シュヴァルシュヴァル」

「えっはい?」

 すると男は、ウマ娘の耳元へ口を持っていきゴニョゴニョと何かを話し始めた。ウマ娘は分かりやすく赤面したと思ったら、時折驚いた顔をして話を聞いていた。

「トレーナーさん……このオースティン選手みたいな筋肉の人は多分譲らないと思うよ……本当にやるんですか……?」

 どうやら話終わったようだ。ウマ娘は不安そうな表情だったのは気になるが。

 なにはともあれ、改まって向き直った男は曇りなき眼で見つめてきたので、どうやら腹が決まったのだろう。男はゆっくりと口を開き、喋り出した。

「店員さん。やや激しめのうまぴょいでいいのでもう少し安くなりませんか?」

「無理にぃ決まってるだろぉぉぉ!?」


 しまった、つい全力の怒鳴り声で返してしまった。後悔時すでに遅し。夫婦のお客様はドン引きして椅子ごと後退りしている。完全にやらかしてしまったぁ!

 別室から店長も慌ててやって来たし、割と面倒な事態になった。まあ、無理なものは無理だし俺は悪くない!

「どうしたのよ筋肉君。挨拶以外でいきなり大きな声だして。申し訳ございませんお客様。うちの者がご迷惑を……」

「店長……」

「筋肉君。何があったのか説明して?」

「そのですね……こちらのお客様が激しめのうまぴょい……いや、人間表現だと激しめの<(自主規制)>をしても大丈夫な物件を紹介してくれと」

「そんな部屋あるわけねえだろ!?」


 このあと、シュヴァルグランというウマ娘とその元トレーナーだという男は、店長によって追い出された。