姉さんやヴィブロスを始めとした色んな人達がサポートしてくれて、晴れて正式にトレーナーさんと同棲することになった。キタさん、クラウンさん、デジタルさん、本当にありがとう。
そして早速だけど、助けて……
「すまん、今日は用事があってね。明日でいいかな? 肉まん博物館」
前代未聞なことが起きた。トレーナーさんにデートを先送りされたのだ。こんなこと、現役時代含めて無かったのに……
もしかして、浮気……?
この期に及んでトレーナーさんを信じ切れない自分に嫌気が差す。溢れかける感情を押し殺し、俯きながらトレーナーさんに手を振った。
トレーナーさんは微かに寂しそうな顔をしながらでて行った……
「……大丈夫だよね。大丈夫、大丈……夫。うん、追跡しよう」
ごめんなさいトレーナーさん。これだけは使いたくなかったけど、今日だけはGPS使うよ。位置情報知るために使うよ。
◇中略
トレーナーさんの3歩後ろ歩くのをキープして僕は追跡を開始した。
念には念を、ダンボールで顔を隠してるから、万が一トレーナーさんが後ろを振り返っても僕とはバレない。声でも気付きそうだし、極力喋らないようにしないと。
「先頭の景色は譲らない!」
今、スズカ先輩居た?
「そこのイカしてるお兄さん! 君にぴったりなTシャツあるんだけど、買っていかな〜い?」
あっ、あの女。商品を話の起点に使って僕のトレーナーさんへ近づいてきた。しかも、あからさまに誘惑してるし、色気と好意を隠そうともしてない。
NTRないよね、大丈夫だよね、トレーナーさん。信じてる……けど。
「おっ、コフキムシ入ってるTシャツだ。カッコいいじゃんか!」
「でしょ! 今なら私の連絡先もサービスでつけちゃうよ☆どうかな、一枚」
「おお、太っ腹だね! ありがとうお姉さん!」
「は〜い、また来てね〜……ってちょっとお金は!?」
よかった。今のであの女のトレーナーさんに対する好感度が地に落ちた。それはそれとして遠くからでもトレーナーさんはかっこいいなぁ。
「なんだぁ、てっきりタダでくれるもんかと思ってたのに」
「そ、それじゃあ一枚買ってくれたら一枚タダでいいよ?」
「おっ、それじゃあこのコフキムシTシャツ買うからこれタダにしてくれ」
「そうじゃないでしょ!?」
程なくしてトレーナーさんは服屋を出禁になった。理由はなんとなく分かる。だってトレーナーさん、コフキムシTシャツの永久機関作ろうとしてたし、贔屓目に見ても妥当。
その後、トレーナーさんを追跡していたけどあまり目立った出来事はなかった。お花屋さんでカーネーションを買ったくらいかな。
「はぁはぁ、ダンボールは蒸れるなぁ。あっ、タクシー!?」
トレーナーさんはここでタクシーを使った。大丈夫、想定内だ。僕を舐めるなよ。引退したとはいえウマ娘だし、タクシーぐらいだったら追いつける。
「タクシーなんかに負けるかぁぁぁぁぁ!」
「今の匂いは、シュヴァちの匂いだ〜! シュヴァち〜……なんでダンボール被って走ってるの?」
トレーナーさんを追いかけていたら、いつのまにか霊園についていた。ここは、動物霊園……?
陰から覗いてみると、トレーナーさんはカーネーションを墓に差していた。そして合掌。墓参りをしているのだろうか。一体誰の、ここは動物霊園だから……あっ!
「忙しくて行けなかったけど、やっと来れたよミーちゃん。居なくなってから今日で4年か……」
聞いたことがある。トレーナーさんは昔ミーちゃんという猫を飼っていた。そして今日は、ミーちゃんの命日。そうか、そういうことだったんだ。
「最近さ、好きな子と同棲することになったんだ。有難いことにね。土産話を聞いてくれるかい?」
ごめんなさいトレーナーさん。少しでも疑ってしまった僕を許してほしい。今日だけはミーちゃんの邪魔はしないから。
……久しぶりに一人で釣りに行こっかなぁ。