トレーナー室の机の上にシュヴァルグランへという手紙が置かれていた。トレーナーさんは朝から不在。この展開、前にもあったなと懐かしみながら手紙の中身を見る僕。
『シュヴァルグランへ
シュヴァルがこれを読んでいるということは、自分はもう学園には居ないということでしょう。ぼくはぼくの主張を貫くための旅に出かけています。危険な旅路、命の保証は何処にもありません。でも大丈夫、シュヴァルはぼくが居なくてもやっていける強い子だから向こうでもシュヴァルのことを思ってるよ。暫く、さようなら』
「……なんで偶に、スマホじゃなくて手紙で伝えてくるのかな。しかも昔の僕だったら絶対勘違いしそうな内容だし」
数年前、手紙が原因で学園総出の騒ぎになったのをトレーナーさんは忘れてしまったのだろうか?(緊急事態を匂わす置き手紙がポツンと置かれていた•より)結局あの後、漁船に乗ってるトレーナーさんを見つけて事なきを得たけど。
ひとまず、スマホに内蔵されているGPSを使ってトレーナーさんが何処にいるか覗いてみた。
「……えっ、ここは……ホームレスの街!? 暴力を仕事にしている組織が密集している日本一治安が悪いスラム街。なんでトレーナーさんがこんな場所に……」
その刹那、トレーナーさんが怖い人達にボコボコにされている風景を僕は想像してしまった。あり得ない妄想のはずなのに自然と身体が震え、冷や汗が止まらない。一縷の望みを賭けて、僕はおぼつかない手でトレーナーさんに電話をかけた。
「……そんな、繋がらない。いつもなら3コールも無いうちに繋がるはずなのに……」
いや、まだ僕の早とちりかもしれない。こんな時こそ冷静に、少し前トレーナーさんに貰った合鍵を使って家に向かおう。たまたま、スマホだけホームレス街に流されてしまっただけかもしれないし。案外、トレーナーさんは自宅にいるかもしれない。
◇トレーナーが住んでるアパート
無人の家の床に情けなく座り込んだ僕は、己の無力さにただただうちひしがれていた。
「い、いない……どうして……」
アパートに向かってる最中も、トレーナーさんが事故に遭ったとか、通り魔に刺されたという空想をしてしまい僕の精神力は終わりかけていたのに。最後の望みすら呆気なく打ち砕かれてしまった。
「そ、そうだ。キタさんに相談したら……なんとかしてくれるかもしれない」
トレーナーさんの事になると1人で抱えて悩んでしまう癖を姉さんに指摘された在りし日。その事を土壇場で思い出した僕は、藁にもすがる思いでキタさんに電話をかけた。
『シュヴァルちゃん? えっと、電話越しでも分かるぐらい息荒いよ? 大丈夫?』
「ぼ、僕のトレーナーさんが……怖い人達の街でボコボコにされていて……」
『えええっ!?』
◇
「あんちゃん、ホームレスになりたてかい? それか、誰かに追われてるのかな?」
「まあ、そんなとこです。理事長とかいうチーム作れbotに追われています。シュヴァル以外担当持つ気ないのに、しつこいんですよね。ムカつくんで今日明日はこの街で雲隠れするつもりです。スマホの電源も切りました」
◇シュヴァルトレは理事長の追跡から逃れるため、ホームレス街に身を潜めていた。
「上層部に喧嘩を売る骨の太い奴は久々に見た。しかし、それをちゃんと担当に言ったのかい?」
「ちゃんと置き手紙で伝えてますよ。そういやいつ帰ってくるかとか、大事な情報書き忘れたかも。まあ、大丈夫か」
◇同時刻頃、色んな一族、警察を巻き込んで学園内は大騒ぎになっていた。