「どうして君がここにいる?」
「お見合い相手が私だからよ。何か問題でも?」
「問題しかないな。まず一つ目。俺はクラウンに実家を教えたことはないはずだ。それを踏まえて、なんでここにいる?」
「もちろんサトノ家の力を借りたわ。俗に言う虎の威を借る狐ってやつね。虎がサトノ家で狐が私」
「……まあいい、二つ目。そもそも俺のお見合い相手は華麗なる一族の令嬢だ。断じて君じゃない」
「ふーん……その人ってダイイチルビーでしょ」
「はっ? それは無い。100%無い。だって聞いてないしそんな話」
「噂をすればなんとやらね……この黒い車は」
家の安寧のためお見合いに出向く私。お相手はトレーナーと経営者という二つの顔を持つ辣腕家らしい。
「婚約で優秀な人材を引き抜く。今も昔も変わらないのですね……」
本音はお見合いなんてしたくない私。第一私には……
邪念を押し殺す私。一族の繁栄の為には時に、私情を捨てなければならない。分かっているはずだ。
年季の入った一軒家で降り立つ私。玄関の前には、黒鹿系のサイドテールが人の出入りを邪魔するかの様に居座っていて困惑する私。その子は腕組みながらこちらを睨みつけてきて再度困惑する私。
ひとまずアドリブで話しかけてみる私。
「サトノクラウンさんですね?」
「如何にも私はサトノクラウンよ」
「そうですか。では、私は急いでますのでそこを退いてください」
「私が退いたら、貴方は十中八九私のトレーナーを強奪する気でしょ」
「……どうでしょうね」
「財政界はサトノも含めて、婚約で優秀な人を囲い込んできた歴史があるからね。しらばっくれても貴方の魂胆は全部わかってるのよ。だから、死んでもここは通さないわ」
不退転のオーラをクラウンさんから感じ取って、この言葉は本気だと理解する私。これだけは使いたくなかったが、仕方ない。
「最終通告です。今すぐここを退いてください」
私の合図と同時に武器を持って周辺で隠れてた私の従者達が家を包囲した。やけにあっさりと包囲できて拍子抜けする私。拍子抜けした理由は単純、メジロの息がかかった者に邪魔されるとかそういうの一才無かったから。
「目視できるだけで12人かぁ。ダイヤトレがダイヤの黒服達に取り囲まれる時の気分をこんなとこで味わいたくなかったわ」(絶望感)
クラウンさんはおそらく、サトノ家の従者を一人も付けてない。一族と同格なサトノ家のお家柄上、護衛を付けない方針は取ってないはずだが……クラウンさんの焦りようを見るに本当に誰も居ないのだろう。
そんな危険を科してまで何故……
「けど、やるしかないわよね。トレーナーは渡さない。このくらいの逆境、跳ね返してやるわ!」
そうか、トレーナーさんとの時間を邪魔されたく無かったのか。
「皆様、武器を納めなさい。そしてお屋敷に帰りましょう」
「ル、ルビー様!? お見合いは……」
「お見合いは破談です。クラウンさんが玄関に居座ってる現状、どっちみち今日のお見合いは不可能です」
仮に彼を引き抜くことに成功しても、将来的に見てこちらが大損害を被る可能性が高い。であれば、こちらが退くのが吉だろう。
「ごきげんよう」
こうして私は帰路についた。車の中で今日の事を思い出して、私はクラウンさんのことが羨ましく感じた。
「私だって私のトレーナーさんと婚約……」
無意識に瞼から溢れた暖かい水玉が頬を伝って落ちた。
◇クラトレ実家
ダイイチルビーは何もせずに帰っていった。華麗なる一族の執念を知っている人からすれば信じられないと思うだろう。私も信じられない……殺されないまでも、てっきり半殺しにされちゃうのかと思ったし。
「よく分からないけど、何はともあれお見合いは阻止できたわね。それじゃ改めて、私とお見合いするわよトレーナー!」