「ナーヴギアでクラウンをVR世界に閉じ込め、クラウンだけの世界を創るっ!? そんなこと出来るわけねえだろ!」
「傲慢だな。君もやろうと思えば出来るだろキタトレ」
「なわけないだろ!?」
クラウンを睡眠薬で眠らせて、何処かに連れ去ろうとするクラトレの現場をたまたま通りかかったキタトレにバッチリ見られてしまい。現在クラトレはキタトレに問い詰められていた。
クラトレは覚悟を決めた表情でキタトレに向き直り意気揚々と宣言した。
「生き方は決めた。俺が望むクラちゃんの、素晴らしい素晴らしい肉体が今目の前にある! クラウンがどんな肉体をしようと、クラちゃんの肉体は俺が保証する。黒井さんの肉体も俺が保証する」
キタトレは狂人のようになってしまったクラトレの主張を、まるで狂信者を相手してるかのような状態でただ耳を傾けていた。
一方でクラトレは話してるうちに高揚したのか、赤ら顔になりながら喋り続けている。
「あとは、クラウンと黒井さんの帳に穴を開け肉体にクラウンを咲かせる。できることを精一杯やるさ」
あらかた喋り倒したクラトレは何事もなかったかのようにキタトレから背を向け、この場から外れていく。
「クッ、出来もしねえことをシコシコすんの意味ねえっつんだよ!」
「どうかな。大事なことだ。特に俺にはな」
キタトレは一瞬でナイフを抜きクラトレを止めようとしたものの、殺人に踏み込む勇気は無かった。けれど止めなきゃクラウンが危ない。キタトレは瞬時に判断出来なかった。
そんな葛藤してるうちにクラトレはクラウンと共に薄暗い森の中へ姿を消していた。
「……黒井さんって誰だよ……」
◇
「クラちゃん、黒井さん、クラちゃん、黒井さん、クラちゃん、黒井さん。最後に残った花弁はクラちゃん……マーガレットも選ぶべき人をクラウンに指名するか」
「ん……こ……ここは……?」
「目を覚ましたかいクラウン」
クラトレは結果として世界を創るという凶行を実行することは無かった。本番前に自慰をしたことでうっかり賢者モードになってしまい、ふと我に帰ってしまったからだ。
サトノ家メイド黒井さんを拉致してナーヴギアを手に入れ、計画は滞りなく済んでいた。後はナーヴギアをクラウンの頭に装着させたら計画成功のはずだった。
失敗の理由は賢者モードである。
「ここは香港のホテルだよ。ほら見てごらん、いい景色だ……」
「え、ええ。そう……ね?」(昨日睡眠薬でトレーナーを眠らせ香港に拉致しサトノ家の一員にする計画立ててたけど、いつのまにか私が眠っていて起きたら香港に居た。どうして?)
彼女は彼女でトレーナーを拉致しようとしていた。
今まで朴念仁なトレーナーになんどもアプローチを仕掛けてたものの手応えはなく。何度も挫けそうになったが持ち前の反骨心で粘り強くアプローチを続け三年。
仲は進展しない。
ついに業を煮やした彼女。メイドの黒井さんと結託して睡眠薬を使い無理矢理トレーナーをサトノ家にさせようとしてたのだ。
「香港観光したらクラウンの親御さんに挨拶したい。いいよね?」
「なるほどね。何が何だか分からないけどとにかく観光したいのね。分かったわここは私のホーム……『我而家講咗乜嘢,教練!?』(今なんて言った、トレーナー!?)」
計画を実行する前に破綻したクラウン。そんな彼女にとってトレーナーの提案は渡に船だった。爆速で快諾するクラウン。
するとトレーナーは何かを思い出したかのようにクラウンへ一枚の写真を差し出した。そこに写っていたのは監禁されて身動きが取れなくなっている黒井さんだった。
写真をみたクラウンは顔を青ざめ、謎の震えと冷や汗を初めとした症状が現れ出す。
「クラウン、俺と結婚を前提に付き合おう」
「いや黒井さんが誘拐……今、トレーナー付き合うって言ったわよね?」
「うん」
「な、なんてタイミングで告白するのよ!? 意味わかんないんだけど、えっ、どんな反応が正解なのよこれ? 相思相愛になれたのは嬉しいけど黒井さんが現在進行形で拉致されてるし、なんか私は故郷の香港にいるし?」
「クラウン。黒井さんの吐瀉物をクラウンにぶつける。クラウンの吐瀉物を黒井さんにぶつける。前から言おうと思ってたんだが、黒井さんの肉体は素晴らしい……!」
「え、えっ?」
「素晴らしいよっ! クラちゃんを慈しみ羨む、俺が望む黒井さんが今目の前にある!」
カーテンで覆われている部屋の前に立ったクラトレは躊躇無くカーテンをブチ破り、中の全容を露わにした。そこに居たのは、猿轡で喋れなくされながらイモムシのように這って移動している黒井さんであった。
「黒井さん……? ト、トレーナー……?」
「クラウンの親御さんに会わせてくれ」ニコッ
オチはない。