手遅れダイヤと寝言が聞きたい純愛クラウン
自称変わり者の寝言。それを無性に聴きたくなったのは何故だろう。トレーナーだからなのか。それとも私の気まぐれなのか。
私のことなのに、分からない。
「薬の効果ちゃんと効いてるねクラちゃん! このあとどうしちゃおっか? 私がよく使ってる監禁にうってつけの廃工場あるけど、クラちゃんも使ってみる?」
「そんな物騒な事やらないわよ」
「なるほど、クラちゃんはトレーナー室でヤリたい派なんだ……」
「なんの話?」
トレーナー拉致のスペシャリストダイヤに協力を仰いだおかげか、何事もなくトレーナーを熟睡させるに至ったわけだけども。
「避妊だけはちゃんとしないとねクラちゃん!」
それはそれとして、ダイヤは一回、ダイヤのパパに叱られた方がいいと思う。あと、ダイヤのトレーナーも人権団体に駆け込んだ方がいいとも思った。
ダイヤの口から語られる断片的な情報だけでも、私から見たらダイヤとそのトレーナーは健全な関係にないように感じる。だってトレーナーを拉致して暴行を日常的に行ってるんでしょう? 絶対におかしい。
そうは思ったけど、この場ではその本音を口に出さなかった。決してダイヤのトレーナーを見捨てたわけではない。時期尚更だと思い至ったからだ。
後で私のトレーナーにダイヤのことを話そう。きっとあなたならこの問題の解決策を提示してくれるはずだ。
「ウーン、ウーン……」
「クラトレさんが起きそうだよクラちゃん! 襲う前に起きちゃうよ!」
いけないいけない、話が大分脱線してしまった。
現状を整理すると、トレーナーに睡眠薬を盛って、今は彼の寝言を待っている感じ。張り詰めすぎだから休んでほしいと考えて投与した面もあるけれど、少し罪悪感はある。
「う、うっ……」
「それにしても、うなされてるわね……もしかして、悪夢を見ているの? 身体が震えてるじゃない」
「ウーン、ウーン……」
「ありがとねダイヤ。私に強力な睡眠薬を教えてくれて。トレーナーはこのまま寝かせとくわ。寝言もウーン以外無さそうだし、そっとしておきましょ」
「ウーン、ウーン……うんこ」
(うんこかぁ)
「フフッ……」
「まさかうんこで笑う人がいるとはね。ダイヤは笑いのツボ小学生なの?」
トレーナーの寝言、『ウーン』『うんこ』←New
地味に期待していた寝言はまさかの何の面白味もない、『うんこ』それだけだった。
……うんこ? 何故うんこ? もしかして夢の中でうんこに追いかけ回されてるのかな。なんて悪夢よそれ。
◇
「トレーナーさんの下半身につける風船はここに置いとくねクラちゃん!」
「いらないわよ……」
程なくしてダイヤは退室していき、この部屋には私と就寝中のトレーナーだけとなった。
「ウーン、ウーン……」
気がかりなのは相変わらずうなされているトレーナー。眠ってから既に数時間は経ってるのに、熟睡できてないのだろうか?
トレーナーの手を握る。夢に直接介入できたらいいのだけど、今の私にはこれくらいしかできない。そんな自分がどうしようもなく、もどかしかった。
間の悪いことに外の廊下も騒がしくなってきた。『廊下の人達に喝を入れてこようかしら』そんな考えも私の中でチラつき始めたタイミングだった。
トレーナー室の扉が謎の男によって突如、破られたのは。
「クラトレぇぇぇ! 今ダイヤに追われてるんだよ。ここに匿わせてくれぇぇぇー!」
「なっ!?」
いやよく見てみると、トレーナー室へ侵入した人の正体はダイヤトレだ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!? なになに、うんこ!? なにかうんこ降ってきた!?」
「うんこ降ってきてないわトレーナー! 落ち着いて……あっ。起きちゃった……」
「スマンクラトレ! ベット下借りるね!」
そう言った後、光の速さで簡易ベッドの隙間へ入っていくダイヤトレ。トレーナーの睡眠を妨害した挙句、この行い。
私の堪忍袋は静かに切れた。
◇クラウンは激怒した。必ず、私のトレーナーを叩き起こしたダイヤトレを除かなければならぬと決意した。クラウンはトレーナーが大好きである。それ故に、トレーナーを傷つける邪悪には人一倍敏感であった。
ピッ
「もしもしダイヤ? ダイヤのトレーナーは私のトレーナー室に居るわよ」