(第六夜)枕があったので仮眠したら〜、シュヴァルの尻尾でした〜チクショー!!
こんな夢を見た。
江戸の怨霊『いゆかんちんちお』が栗毛寺の山門でシュヴァル像を刻んでいる評判を聞きつけ、行ってみると、既に大勢の人が集まっていた。
栗毛寺の山門は、フォークと野球ボールが不規則に飾られており、平成の世に作られた建物と思われる。
ところがシュヴァル像を見物しているのは、みんな明治の人間である。その中でもサトノクラウンが一番多い。キタサンブラックがまちまちで半数がクラウンだった。
クラウン達は『シュヴァルに似てるわね』と云っている。『人間を拵えるよりもよっぽど骨が折れるわよ』とも云っている。
そうかと思うと、『へえシュヴァルグランね。今でも木像って彫るのね。へえそうなんだ。私は木像なんてみんな古いのばかりかと思ってた』と自分の隣にいたクラウンがそう云った。
怨霊は見物人の視線を気にする様子は無く、ひたすらに鑿と槌を動かしている。高い所に乗って、シュヴァルの顔の辺りをしきりに彫り抜いていく。
自分はどうして『いゆかんちんちお』はシュヴァル像を掘っているのかなと思いながら、立って見ていた。すると自分の隣にいたクラウンが『シュヴァルは可愛いからね。きっと鑿と槌の力で木に封印されてるシュヴァルを掘り起こしてるに違いないわ』と云った。
シュヴァルは可愛い、最高、嫁にしたいという部分に共感しつつ、この時初めて彫刻とはこんなものかと思った。
それで自分もシュヴァルを掘ってみたくなったから見物を辞めて家へ帰った。鑿と槌を底無しの借金で買って、積んである薪を片っ端から掘ってみたが、シュヴァルは見当たらない。
ついに明治の木には到底シュヴァルは埋まってないものだと悟った。それで『いゆかんちんちお』が今日まで生きている理由もほぼ分かった。
◇
「うーん……なんか変な夢を見たな」
ぼやけた意識が戻ってくるうちに、後頭部にフサフサとした違和感を感じた。頭を上げてみると『ピャッ!?』という力無い微かな悲鳴が聞こえてきた。
声のした方を向いてみると、りんごのように顔面を赤く染めた涙目のシュヴァルグランがビクンビクンと身体を震わせている。視線はあらぬ方向を向いていた。
起きた時点でこの仮眠用ベッドの周辺に枕は無かった。近くにあったのはシュヴァルの尻尾だけ。状況的に自分がシュヴァルの尻尾を枕代わりに使ってたんだと瞬時に察し、無言で土下座の体制へ移行した。
ウマ娘の尻尾は非常に敏感な部位でデリケートである。それをぼくは少なくとも数十分の間、シュヴァルの尻尾を枕代わりにしていたと。大罪である。極刑物である。
「ぼ、僕は、トレーナーさんに、家族以外には触られたことない尻尾を……ウウッ。だ、だから、せ、せきにん……とってください」
「辞職します」
「……えっ? ま、まって。いや、ち、違……」
◇このあと小一時間、シュヴァルグランの必死の説得でトレーナーは辞職を踏みとどまった。