場面は9回の表一死1•2塁。名を知らないウマ娘と桐生院葵に四球とヒットをもらい、守護神のシュヴァルグランはピンチに陥っていた。リードはたったの1点。次のバッターはヴィブロス。
すると監督兼選手であるシュヴァルTが自らマウンドに向かい、青ざめた表情になっているシュヴァルグランへ一言声をかけた。
「考えすぎるなよシュヴァル。今だって極論、ヴィブロスをゲッツーに抑えれば勝ちの場面だ。自信あるボールを投げていけ」
トレーナーはシュヴァルグランにそう言った後、ベンチへ戻っていった。
(分かったよトレーナーさん。小細工なし初球から直伝のフォークボールで、僕がチームを勝利に導くんだ!)
シュヴァルグランは振りかぶって、投げた。ヴィブロス見逃しストライク。しかし、その間にダブルスチールでランナーを進められ、一死2•3塁にピンチ拡大してしまう。
「シュヴァルのトレーナー、若しくは監督。やはりもう一回、シュヴァルのためにタイム取った方がいい気がするけど」
「まあ、大丈夫でしょ。さっきの会話でシュヴァル開き直ったのを肌で感じたから」
「本当に? でも打席に立ってるのは私の妹ヴィブロスだし……いや、シュヴァルのプレッシャーをモロに受けてヴィブロスの方が怖気ついてる!?」
「たまにレースで見せるような青い炎がシュヴァルの眼に浮かんでる今、タイムかけるのは野暮ってものだ。心配しなくてもこの様子だときっと、連続三振で終わらして帰ってくるよ」
打席に立ったヴィブロスは姉の本気を目の当たりにして、脚が震えていた。その時の心境を彼女は後にこう語る。『あの時のシュヴァちはさぁ、ぶっちゃけパパの因子乗り移ってたよねぇ〜手も足も出なかったよ』実際、トレーナーの願望通りの三振ではなかったものの、この対決は一ゴロに終わっている。
ヴィブロス一ゴロ。三本間で名無しのウマ娘が挟殺される間に進塁し二死2・3塁。
「なっ、シュヴァルさん覚醒状態なのずるいですわ! ユタカ〜! 私にも力を貸してくださいまし!」
ネクストバッターサークルにいるのはメジロマックイーン。メジロタイガースのキャプテンである。
「ヴィルシーナ。今日マックイーンの打席内容どうだったっけ?」
「空三振、空三振、空三振、空三振。全打席三振よ」
「扇風機かよ勝ったな風呂食ってくる」
マックイーンは初球フルスイング。つむじ風を起こすようなスイングだったが空振り。2球目もフルスイングで空振り。ノーボールツーストライク、あっという間にマックイーンは追い込まれた。
「キャッチャーちゃんとシュヴァルの球取れよ〜? 松山の悲劇の再来はゴメンだからな〜?」
「三振でゲームセットのはずが、キャッチャー球を取れなくて振り逃げ逆転許した阪神ファン達トラウマのやつよね?」
「詳しいねヴィルシーナ」
[chapter:「ウラァァ! スタンリッジ選手ただただ可哀想打法ですわ!!!」カキーン]
「あっ、やばい!? 一二塁間抜けたぁぁぁ!?」
マックイーン意地のヒットで3塁ランナーの桐生院が帰ってきて同点。さらに2塁ランナーのヴィブロスも3塁ベースを蹴って一気に本塁に突入する。
その前にボールを捕球していたライトキタサンブラック。鉄砲肩活かしたバックホームを披露し、間一髪本塁クロスプレーでキャッチャーがヴィブロスをタッチアウトした。スリーアウトチェンジ。
「フォークが……大魔神フォークが……う、打たれた」
シュヴァルグラン、マウンドに蹲り立ち上がれず。トレーナーに抱き抱えられながらマウンドを降りる。
「しゃ、しゃあない。勝ち越されなかっただけありがたいと思おう。先頭バッターはシュヴァルか……自分が行く!」
「ねえ、シュヴァルのトレーナー」
「どうしたヴィルシーナ? そうそう、先に言っておくけどボクが出たら代走頼むわ」
「それは構わないのだけど。この試合全打席凡退した上、勝ち越しのランナーだったのに走塁で暴走してアウトになったヴィブロスを慰めるため、ここに連れてきてもいいかしら?」
「ヴィブロスはヴィブロスで控えと交代したらしいしいいけど、シュヴァルも慰めてやって」