二次短編小説置き場ブログ支部byまちゃかり

主にウマ娘の短編を投稿してます。基本的にあるサイトからの自作転載となります。

コウメワールドに迷い込んだシュヴァルグラン

◇前回(存在しない記憶)のあらすじ

 高羽領域やら聖鼻毛領域の研究をしていたタキオンさんは、ひょんなことからコウメワールドを作ってしまう。コウメワールドは程なくして暴走して、偶々居合わせていた僕も巻き込まれてしまった。


<チャンチャカチャンチャンチャチャンチャチャンチャン


 この世界は不気味な音楽が一定間隔で流れているらしい。横に目を向けると一面広がる白い壁。その壁は絶えず変化して、ある時には扇子になり、演歌歌手になり、コウメ○太夫になった。

「……薄気味悪い空間だ」

 ひとまず、この世界から脱出する方法を見つけよう。そう思っていた所に、再び変な音楽がこの空間で鳴り響いていく。


<チャンチャカチャンチャンチャチャンチャチャンチャン


『延長コ~ドを引っ張ったと思ったら~』

「ヒッ……!? な、なに……!? きゅ、急に……頭の中にこ、声が……!? コード?」

 例の音楽が鳴ったと同時に、変な声が僕の脳内に直接語りかけてくる。そして僕の手には延長コードが握られていた。

『おばあちゃんの背骨でした~。チクショー!!』

「えっ、延長コードが……骨になったぁぁぁ!?」

 手に持っていた延長コードは瞬きする間もなく人の背骨になった。反射的に骨をフォークボールを投げる要領で壁へ叩きつけたら直ぐに消えた。

「な、なにこれ……」


<チャンチャカチャンチャンチャチャンチャチャンチャン


 間髪入れずに再び音楽が鳴り響く。

「……ま、また?」

『将棋で頂点を目指そうと思ったら~』

シュヴァルグラン九段と将棋名人竜王の一戦をお送りします』

 何故か分からないけど僕は和室で将棋をしていた。相手は竜王と書かれている駒をそのまま等身大にしたような未知の生命体で凄い威圧感を放っている。命の危機をヒシヒシと感じた僕は、死を覚悟するくらいの恐怖に支配された。

 そんな僕を知ってから知らずか、未知の生命体は何かを取り出して将棋盤に投げつける。

『1手目がア~モンド小魚でした~。チクショー!!』

 将棋盤にはアーモンドと小魚がピチピチと跳ねていて、盤面を支配していた。状況が目まぐるしく変わる中、僕はただただ呆気に取られてツッコミすら出来ない。程なくして和室と未知の生命体は居なくなっていた。

「……ダメだ。このままだと、僕の精神がおかしくなる……でも脱出方法なんて」


<チャンチャカチャンチャンチャチャンチャチャンチャン


『キングオヴコント決勝を見ていたら~』

 今度は知らない部屋にいた。隣には知らないおじさんがいて、僕は光の速さで距離を取り部屋の隅に蹲った。多分僕は、顔を蒼ざめて過呼吸も起こしてただろう。

 近くにTVがあるのか色んな人の笑い声が聞こえてくる。おじさんは僕に見向きせずTVを観ていた。

『ファイナリストがチンパンジ~でした~。チクショー!!』

 すぐに部屋は消えて、場面は白い壁へ戻った。僕はこの世界を理解出来なかった。こんな世界に転送したタキオンさんを恨んだ。


<チャンチャカチャンチャンチャチャンチャチャンチャン


「……トレーナーさん! タキオンさん! 誰でもいいから助けてぇぇぇ!?」

『全面鏡張りかと思ったら~』

 すると、白い壁は一瞬で全部鏡になった。これは……今までと比べたらまだマシな状況だ。てことは、今回は何事もなく終われるかもしれない。そんな淡い期待を込めて僕は次の言葉を待った。すると何処からともなく人間サイズのレモンと一匹のハムスターが僕の目の前に現れていく。

『ハムがレモンを洗脳してました~。チクショー!!』

 レモンは異様な口を生やし赤いオーラを放ったタイミングで僕に襲いかかってきた。間一髪、噛みつきを避けた僕は、スタミナ管理なんて糞食らえ全速力でこの場から逃げた。レモンはウマ娘並みのスピードで追ってくる。

「……なんで、まだ追ってくる!? もうチクショー言ったはずなのに。法則的に消えるはずなのに……」

 僕は先が見えない道をひたすら進んだ。もう既に体感1500mは走り続けているだろう。レモンはまだ追ってきている。

「……誰か、誰か。誰か助けてぇぇぇ!」

「こっちだシュヴァル! ワールドの壁をこじ開けてる隙に飛び込めぇぇぇ!」

 久しぶりに聞く、僕の好きな人で安心する声。声がした方を向くと白い壁に小さな穴が開いていて、それをトレーナーさんが特殊な器具を使い閉じるのを阻んでいる姿が見えた。

「ト、トレーナーさん!」

 僕は躊躇うことなく飛び込んだ。


◇程なくしてコウメワールド消滅


 少しばかり気を失っていたのか、次に目を覚ますと僕はタキオンさんのラボにいた。現在進行形で僕を抱きしめているトレーナーさんも気を失っているのか、硬い床の上で眠っている。

「領域こじ開ける道具を一か八かで作れてよかったよ全く。道具が上手く作用しても、こじ開けた先で君が都合よく居る前提の運用だったからどっちみち分の悪い賭けだったけどねぇ」

「……タキオンさん」

「怖い顔をするのは辞めてくれよぉ〜。心臓に悪い。実験に失敗は付き物じゃあないか〜。それに偶然の産物であるコウメワールドは大したものじゃないし、そんな怒ることかねぇ〜」

「引っ叩きますよ?」

 こうして僕は小一時間タキオンさんを追いかけた。その夜はコウメワールドの夢を見て眠れず、トレーナーさんの部屋へと駆け込んだ。今日の夜は長かった。