二次短編小説置き場ブログ支部byまちゃかり

主にウマ娘の短編を投稿してます。基本的にあるサイトからの自作転載となります。

ぬいぐるみになったヴィルシーナを食べるシュヴァルグラン

 気がつくと私は何の脈略も無くぬいぐるみになっていた。試しに手を動かそうとしたが、その意思に反してピクリとも動かせなかった。


(ふふっ、なるほどね〜意味が分からないことが分かったわ。もしかして新手の転生かしら? 『転生したらぬいぐるみでした』とかそういうの? てか声出せないし動けないしで不便だわ)

 とりあえずこの身体じゃ何もできないので、ひとまずこの部屋には何があるのか。状況を私なりに整理してみることにした。


(この部屋……シュヴァルが使ってるトレーナー室に酷似してるわね。ていうか、あの書類まみれのデスクに突っ伏してるのは……シュヴァルのトレーナーさん、もとい義弟くんじゃない!)

 つまりここはシュヴァルのトレーナー室で間違いないだろう。義弟くん居るし。それが分かったところで根本的解決はしてないが、大きな一歩だ。義弟くんなら何か知ってるかもしれない。

 淡い期待を抱きつつ、私は義弟くんにありったけの声量を込めて助けてと言った。しかし、義弟くんはピクリとも動かない。

(あっ……そうだったそうだった。助けを呼ぼうにも、声出せないんだったわね……)

 現状、打つ手無し。どうしたものなのか。

 そもそもどうしてこうなったのだろう。そう疑問に思った私は前後の出来事を少しだけ思い出してみることにした。


           ◇


タキオンさんの発明品、飲めば一瞬でぬいぐるみになる薬……やっぱり返品してこようかな。前使ってロクなことにならなかったし。1分間、ぬいぐるみ触り続けるだけで薬の効果切れるから使い勝手悪いし』

『遊びに来たよ〜シュヴァち〜!』

 ヴィブロスは適当な理由をつけてシュヴァルをトレーナー室の外へ連れ出した。その隙に私は入れ違いの形でトレーナー室へ侵入。

『シュヴァルと義弟くんの進捗をこの目に焼き付けるため……しょうがないしょうがない』

 私がここへ来た理由はシュヴァルの日常を間近で眺めたいというお姉ちゃん印の好奇心だった。もちろん、この部屋の何処かに隠れて陰ながら見守るだけ。

 そんなわけで、どこに潜伏しようかなと部屋を探索していた私。そこで机にポツンと置かれていた栄養剤みたいものを発見する私。

『これは……栄養剤かしら? 見たことないわねこういうものは。せっかくだし一口味見味見っと☆ あれ……急に眠気が……』


           ◇


(それで私はぬいぐるみに変化していたと。全くもって意味がわからないわね。強いて言えば栄養剤が関わってる……?)

「ファァァァ〜ああ。ヤッベ、資料整理する前に寝ちゃってた。寝てたの30分くらいか」

 ここでシュヴァルのトレーナーさんもとい義弟くんが夢の世界から目覚めた。その流れのまま私に目もくれず義弟くんは資料片付けに熱中していった。

 それからしばらくして、背後から私がよく耳にする聞き慣れた声が聞こえてきた。少しだけ気怠げそうな声色だけど、間違いない。シュヴァルだ。

「はぁ……お腹が空いて力が出ない。あれは……肉まんだ」

 シュヴァルがそんな言葉を溢したその直後、強烈な浮遊感と共に右耳へ強烈な電流が走った。これは、シュヴァルに抱き抱えられて耳を食べられてる……の!?

(ゔぁっ……なに……これ? 右耳を、シュヴァルに甘噛み……され、てるの? き、気持ち……いいわ)


ヴィルシーナは魅せられていた。シュヴァルグランの耳舐めの才能を。シュヴァルトレは見ていた。シュヴァルグランがぬいぐるみを食べている姿を。


「シュヴァル……これ、ぬいぐるみだよ。はい、肉まん」

「えっ……はっ! 僕、また間食癖でぬいぐるみを!」


◇シュヴァルがぬいぐるみを触った時間はたった45秒。それでも、ヴィルシーナの顔面と理性は幸福で崩壊していた。ぬいぐるみは肉まんとの交換でシュヴァルトレの手に渡った。

◇シュヴァルは余程お腹が空いていたのか、ホクホク顔で肉まんを無我夢中に頬張っている。そんな彼女をよそに、シュヴァルトレはヴィルシーナに似ているぬいぐるみを手に持った後、ただただ凝視していた。


(ア゙ッ゙…゙…゙ア゙ッ゙)


「なぁシュヴァル。自分このぬいぐるみ知らないんだけど、もしかして君のかい?」

「いえ、僕も知らないです……やけに姉さんに似てる気がするけど……」

◇そして、シュヴァルトレがぬいぐるみを触ってから1分が経過した。すると薬の効果が無くなりだした合図、ぬいぐるみから煙がモクモクと出始めて……


「なになに、火事か!?」

「トレーナーさん、なんか。ぬいぐるみから煙が出てるような……えっ?」

「ア゙ッ゙…゙…゙ア゙ッ゙」


ヴィルシーナは無事、ぬいぐるみからウマ娘へと戻ることができた。


「……何やってんだ、姉さん」

「ア゙ッ゙…゙…゙ア゙ッ゙……あっ」

「はっ? ぬいぐるみがヴィルシーナに変身したのか? どういうこと? しかもアヘ顔だし……なにこれ?」

 

◇その後、ヴィルシーナは自身のトレーナー室にて、二日程度引き篭もったという。