懺悔室の住民サトノクラウンと変態トレーナー
◇20xx年、世界は遊〇王に熱狂していた。遊戯〇以外のカードゲームは圧倒され、全ての生物がデュエリストになったように見えた。だが、非デュエリストは死滅していなかった!
今日は雲一つないのどかな天気。小鳥はさえずり、蝶は花の周りを飛んで蜜を吸う。
用水路で泳いでいただろう、うなぎも嬉しそうに空を舞った。
「うなぎが空飛ぶな。蒲焼きにしてやろうか! オラッ! 責任者出てこい! 説教してやる!」
そんな日に俺は、無駄にデカい扉を爆弾で吹っ飛ばした後、単独で教会にカチコミしていた。
教会には金髪おばさんシスターが一人居て、奥には懺悔室らしきものが見えた。
ずけずけとシスターが俺に近づいてきたけど、お前はどうでもいい。今日は懺悔室に居るであろうウマ娘に用がある。
「あらぁ〜。どうなさりましたか? 妊娠ですか? 洗礼ですか? それとも、あ、た、し?」
「もう20年若返ってかつ、痩せた後出直してこい。豆タンク体型で迫ってくんな」
「最高司祭様はデュエルマ〇ターズに手を出した罪で終身刑になりましたので、今日は不在です。司祭様に用があるなら後日、刑務所にいらしてください」
「いや、結構。今日は懺悔室に居るらしい俺の担当ウマ娘に用があるんで」
シスターを押し退け、木製小屋みたいな懺悔室へ歩を進めた。
「カードゲームを布教し、それ以外の文化ジャンルを軒並み衰退させ、挙げ句の果てに日本を支配した元凶がここにいるんだな」
ダイヤによると、担当が〇戯王を趣味にしていると聞きつけたファン達によって、あれよあれよと懺悔室に担ぎ上げられたらしい。ちょっと何言ってるか分からない。
懺悔室の周りには遊〇王カードが無数に貼られており、どこか形容しがたい独特な雰囲気を放っていた。
意を決して中に入ってみると、そこは一畳ほどの個室だった。次に目に映ったのは正面に透明カーテンで覆われた額縁である。
透明カーテンで見えづらいけど、俺の目は誤魔化せない。勝負服を着たサトノクラウンが額縁越しにいるということを。
「迷える子羊よ。さあ、あなたの罪を打ち明けなさい」
クラウンは胸を反らしつつ腕を斜めに上げたあと、変な口調でこう宣言した。俺以外でも毎回やってるのそれ?
「俺だよ俺。昨日居なかったと思ってたらこんなとこで何してんだよ。カードゲームで世界征服でもする気か?」
「なるほどオレオレ詐欺を働いた……と。深く反省しなさい。さすれば慈悲深きクラウン様は赦しを与えてくれるでしょう」
「何すっとぼけたこと言ってんだ? ていうかさ、お前クラウンだよな?」
「いいえ。私は遊〇王を司る神よ」
「あのなぁクラウン。お前は少なくとも神じゃねえよ。ただ、俺から見て顔面偏差値は女神級だけどな?」
そう俺が言った後、顔を赤くしたクラウンは急に立ち上がり、カーテン越しでも分かるぐらい部屋を右往左往し始めた。
煽てただけでこの挙動不審っぷり。やはり目の前に居るのは、俺の知っている担当ウマ娘サトノクラウンだ。
「すっ〜はぁ……他に懺悔はありませんか? なければこの部屋を出て再び前を向いて生きなさい」
「おいちょっと待て。今日来た目的はクラウンを連れ戻すためなんだ。あと、カードゲームプレイヤー連中の暴走を自重させてほしい」
「もう何もない様ね。では私は次の迷える子羊を待つとするわ。さあ、お行きなさい」
「部屋から出ろっつってんだろ!」
「出ていって! 懺悔が終わった人は出て行って!」
正体あらわしたなクラウン。
しかし、この流れは少々悪い。クラウンは完全にムキになっている。こうなったクラウンは絶対自分から折れないし、このままじゃ何時間も話が平行線を辿りそうだ。
仕方ない。ここはあえて乗ろう。
「……実は打ち明けたい話があるのです」
「!? へぇ〜聞きましょう! さあトレーナー。罪を告白し懺悔なさい」
「実は最近、大人気カードを法外な値段で転売しました」
「えっ……?」
「あと俺が担当しているウマ娘がトレーナー室でこっそり俺の上着や下着を嗅いでたり、着ているのを目撃したんですけど。俺の体臭で劣情を抱いている担当ウマ娘を見て、自分も興奮してしまいました。最近は隠しカメラを仕掛けた後、わざと使用済み下着を脱ぎ捨てて担当の反応を楽しんでいました」
「トレーナー、ちょっと何言ってるの……?」
「最近は他のウマ娘も興味を持っていて、昨日の担当不在をいいことに色んな娘をリストアップ……」
「わあああー! 変態トレーナーぁぁぁ!」
俺が色んなウマ娘に興味を持っていると言ったところで、額縁越しにクラウンが上半身を乗り出してきたと思ったら、割と強く俺の頬をつねってきた。
「おひゃめもへぇんたぁいだぁろうがぁぁぁ!(お前も変態だろうがぁぁぁ!」
◇
暫く、教会の一席で体育座りをしながらいじけていた涙目クラウンは、震えた声で俺に質問してきた。
「本当に、他の娘に興味を持ったという件は嘘なんでしょうね?」
「最初の二つはともかく、最後のは嘘だってば」
「それを聞いて安心したわ……」
こうして俺はクラウンを回収して、気まずい空気の中一緒にトレセンへ帰った。
後日、俺の服をクラウンに貸し出すという奇妙な関係をたずなさんに知られてしまい、騒動へと発展してしまった。