モフモフウマの刃〜お兄ちゃんの存在しない記憶
深夜、鋼の意志を捨てないトレーナーにキレたカレンチャンは、己のトレーナーに夜這いをかけていた。
「寝起きドッキリならぬ、熟睡媚薬注射だよ。お、に、い、ちゃ、ん」プツリ
「ガッ!? なァァァァァぁァァォォ!?」
突如、カレンチャンに脳内破壊されカワイイへと昇華したトレーナー♂の脳内に溢れ出した存在しない記憶。
◇
「幸せが壊れる時にはいつも、血の匂いがする」
トレーナーは竹林生い茂る雪の中を歩いていた。竹製の猿轡を嵌めたカレンチャンを行李で運びながら。
だがしかし、たちまちトレーナーは、モフモフ求めて三千里中だったアドマイヤベガに行李を奪われてしまう。
「返してくれぇ〜。その子は妹だ。僕の妹なんだ!」
「だからなに? 私の仕事はモフモフを集めることよ。もちろん、カワイイモフモフなカレンさんも私が喰らう」
「待ってくれ! カレンはカワイイ美少女で完璧な存在なだけでモフモフじゃあない。カワイイだけなんだ! 必ずお兄ちゃんである僕が責任とって結婚する! だから返してくれぇ! どうか……お願いします……!」
「生殺与奪の権を、他人に握らせるな! 惨めったらしく蹲るのは辞めろ! そんな事が通用するならモフモフは存在しない! 妹を奪うか奪われるかの時に主導権を握れないお兄ちゃんが妹と結婚する? モフモフに戻す? 笑止千万! 弱者には、なんの権利もないも選択肢も無い! 悉く力で弱者にねじ伏せられるのみよ!」
トレーナーはモフモフな雪の中を蹲りながら泣いた。アドマイヤベガの圧倒的なモフモフ覇王色を前に、トレーナーは指一本、身体を動かせなかった。
「妹をモフモフに直す薬とかあるかもしれない! だが、モフモフハンターが貴方の意思や願いを尊重してくれると思わないことよ。当然、私も貴方を尊重しない。それが現実よ。何故、貴方はさっき、『どけ! 僕はお兄ちゃんだぞ!』なんて言った? そんなことで妹を守ったつもり? そのしくじりで、貴方は妹を取られている! ハヤヒデさんのモフモフで封印してもよかったのよ」
「そうだこの世界は弱肉強食。目が覚めたよアヤベさん。妹を取り返すため、全力でお兄ちゃんを遂行する!」
トレーナーは覇王色を押し退け、アドマイヤベガに襲いかかった。彼女はトレーナーのパンチをいなしつつ、ハヤヒデのぬいぐるみを取り出す。
「その心意義は買うけど、お兄ちゃんパワー解放状態でもモフモフには敵わないわよ。ハヤヒデさん式モフモフ獄門疆で封印!」
ハヤヒデのぬいぐるみは巨大化し、トレーナーを包み込んでいく……
「ガッ!? なァァァァァぁァァォォ!?」
◇
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! よかった……目が覚めてよかった……!」
「はぁはぁ、イタタ……あれ、なんで泣いているんだカレン……? ていうか、ここは……? 僕の住んでる部屋だ……」
カレンチャンに媚薬を打たれてから数時間。長く苦しんで目覚めたトレーナーは外を見ると、太陽は青い空の海を泳ぎ、昇り始めていた。
状況的に、トレーナーは今まで悪夢を見ていたんだと悟り、心の中で胸を撫で下ろした。
「タキオンさんから解毒剤貰っておいてよかったわねカレンさん」
「媚薬作ったのもタキオンさんだからマッチポンプ感あるけど、まあいっか」
「あとは、ハヤヒデさんの毛を拝借して作ったぬいぐるみを枕にしたのも効いたのかもね」
トレーナーはアドマイヤベガ特製、モフモフのぬいぐるみを枕代わりにして眠っていたらしい。
「ガッ!? なァァァァァぁァァォォ!?」
その事実を知った彼は、存在しない記憶のトラウマを呼び起こし、そして再び寝込んだ。