緊急事態を匂わす置き手紙がポツンと置かれていた
物音にビックリしつつ、僕はトレーナー室をノックした。
「……ト、トレーナーさん? 留守……なのかな……」
珍しくトレーナー室は空いていて中からの返事もなく、恐る恐る部屋に入ったけど誰もいない。
「……そうだよね。今日はお休みの日だし、トレーナーさんもお出かけしてるよね……」
トレーナーさんと契約して早二年。僕はトレーナーさんのことを恋愛的に好きなんだなと最近知って、それ以来トレーナーさんに対する感情が増幅している現状である。
きっかけは記者達の質問攻めを人見知り気味なはずのトレーナーさんが、僕の代わりに質問を捌いてるのを間近で見て、僕の男性観は壊れてしまった。そこから片思い……
でも、僕はそこから一歩踏み出すのが怖い。他の人は片思いなんかとっくに卒業しているのに、僕は怖いのだ。
片思い卒業代表、キタさんやクラウンさんは度々乙女な顔になっている。トレーナーさんといい関係を築いてるのかなと思う。そう感じる反面、僕は他の人と比べて自分の気持ちを出せなくて、ただただ苦しい。
僕だってトレーナーさんに甘えたい。優しさに漬け込んで依存したい。どうしたらいいんだろう。
「なんだろうこれ……置き手紙かな? 僕宛だ……」
シュヴァルグランへ
シュヴァルがこれを読んでいるということは、自分はもう学園には居ないということでしょう。
ぼくはいま知らない人と漁船に乗っています。
海だし、命の保証はないでしょう。
でも大丈夫、シュヴァルは俺が居なくてもやっていける強い子だから向こうでもシュヴァルのことを思ってるよ。
暫し、さようなら。
手紙を読んでるうちに足元からガタガタ震えだし、冷や汗が背中を伝った。この文面を見るにトレーナーさんは何かの事情で知らない人に海へ連れ去られたのかもしれない。僕は最悪の事態を想像して、震えた。
「シュヴァルちゃん? あたしに電話って珍しいね。どうしたの?」
「ぼ、僕のトレーナーさんが……怖い人達に漁船で連れ去られちゃった……」
「……ええっ!?」
僕は藁にもすがる思いでお助けキタちゃんとやらに頼った。トレーナーさん……
◇一方その頃 トレーナーは。
「淡路島でぶん殴るぞ!」
「どういうこと?」
「〇〇君、大規模釣り大会誘ってくれてありがとう!」
「いいってことよ! そういえばお前の担当、シュヴァルグラン連れてこなくてよかったのか? 彼女、釣り好きだって前言ってたし」
「ああ、シュヴァルは今日お休みだしな。でも本人の都合とかあるだろうし今回は誘わなかった」
「はぁ……おもんな」
「万が一トレーナー室に来た用に今日は学園に居ないよって内容の置き手紙を置いてるし、今頃シュヴァルは友達とどっか遊びに行ってたりしてね」
「今時置き手紙とか珍しい。仕方ない、シュヴァルグラン来ないなら今日はトレーナー業忘れて釣りまくろうぜ!」
「さてはお前、本音言うとぼくよりシュヴァルに会いたかったよな?」
「淡路食べ比べアタック!」
「ぬわっ、淡路狂信者が玉ねぎ投げてきた!」
「それにしても淡路の人、初対面だけどヤバない? 淡路布教行動bot」
◇シュヴァルグランのトレーナーは船の上で仲間達と釣りを楽しんでいた。学園は大騒ぎになっている。