二次短編小説置き場ブログ支部byまちゃかり

主にウマ娘の短編を投稿してます。基本的にあるサイトからの自作転載となります。

激しめの音を出しても大丈夫な物件を探している新婚シュヴァルグラン達

「筋肉君と筋肉ちゃんは裏切らない! 1110、1111、1112!」

 俺はとある不動産屋で働いている、名は五十嵐筋太郎。こう見えて腹筋と結婚するぐらい筋肉が大好きだ。おっと、日課の腕立て伏せをやってたら最初のお客様がやってきたようだ。

 あれ? 男の隣にいるウマ娘、誰かに似てるな。シュヴァルグランに似てる……本人なのか? 仮に本物なら、この男とはどんな関係なのだろう。どっちみち店員の俺には関係ないことだが。

「うわ、なんか筋肉バーサーカーみたいな店員がレジに立ってんな」

「トレーナーさん……ここって本当に不動産屋だよね?」

「多分……」

 俺は空気を吸い込み腹筋を張り、ありったけのいらっしゃいをお客様へぶつけた。

「いらっしゃぁぁぁいませぇぇぇ!」

 下半身だけ筋肉がしっかりある男と、水兵帽子を被ったウマ娘は微妙そうな顔を浮かべたあと、何故か二人とも入り口で立ち止まってしまった。

 そして暫く、店内の時間が止まったかのような静寂に包まれた。


          ◇


 数分経っただろうか、痺れを切らした俺はこちらから男女へ接触を計った。どうやらこの男女は夫婦で探せる部屋を探しにきたらしいかった。

「この感じは新婚さんですね。ええ、分かりますとも。お二人とも初々しい雰囲気ですからね。それでは、どのようなお部屋をお探しでしょうか?」

「激しめのうまぴょいしても大丈夫な部屋ってありますか?」

 思いがけない不意打ちをくらい思考停止。うまぴょい? うまぴょい……いや、まさかね……?

 男が発した言葉の意味を理解するため数秒間、さらに思考を巡らせる。隣にはウマ娘の女。新婚。激しめ……

 聞き間違いか? 聞き間違いであってくれ。そうだ、あれだ。きっとうまぴょいって踊りのやつだ。激しめが引っかかるけど、そうに決まってる。ひとまずもう一度聞いてみよう。

「申し訳ありませんが、もう一度仰って頂いてもよろしいでしょうか?」

「激しめのうまぴょいしても大丈夫な部屋ってありますか?」

 聞き間違いじゃなかった。しかも食い気味だし。ええっ、今日のお客様1号目からとんでもねえの来たなこれ。

「なるほど……なるほどですね。なるほどなるほど。つまり、防音の部屋を探しているって解釈でよろしいですかね?」

「激しめのうまぴょいが出来たらなんでもいいです」

 恥ずかしげもなく涼しい顔でよくそんな事言えるなこの男!? ウマ娘の方見てみろ。さっきから一言も喋ってないし湯気が出るぐらい顔も赤くなってるから!

 そんな本音を意地で飲み込みつつ、俺は純粋な疑問を男へぶつけた。

「はぁ……まあ不動産屋からしちゃあ、売れるに越したこと無いんでいいんですけどね。まあ、私が言うのもなんですが、そういうのってホテルじゃダメなんですかね?」

「筋肉店員さん。例えばですけど、毎日ホテルに泊まる人って普通は居ませんよね?」

「そりゃあ、まあ……」

「そういう事です!」

 何がそういう事だよ。ていうか、この感じだとこの男毎日愛し合う気じゃん。

 ウマ娘相手だと常人は一瞬で搾り取られて、翌朝には干からびてしまうというのが定説なのに。気でも触れてんのか。

 あと、隣のウマ娘もなんか言えよ。夫がすごいこと言ってるよ!? って、涙目浮かべて泣きそうになってるし。多分これ、男の方がご乱心なんだろうなこれ。

「ぼくはシュヴァルと一緒に居たら落ち着くし幸せなんで、別に物件無かったらホテルでもいいんですけど。それだと流石に予算オーバーするんで、なんかないですかね?」

 ウマ娘の子、なんか急に照れ笑いというか嬉しそうな表情になったと思ったら指をモジモジしだした。何があったんだ怖いな!?

 ……もういいや。自分の仕事に集中しよう。

「はぁ……そうですねぇ。二人で住む部屋の相場よりはかなり値が張ってしまいますけど、それでもよろしいでしょうか?」

「賞金とかでお金はあるし、僕はいいと思うけど……」

 やっとマトモにウマ娘の子喋ったな。僕っ子だし、思ったよりボソボソ声だった。

「ウーン、値段張ったなぁ。シュヴァルシュヴァル」

「えっはい?」

 すると男は、ウマ娘の耳元へ口を持っていきゴニョゴニョと何かを話し始めた。ウマ娘は分かりやすく赤面したと思ったら、時折驚いた顔をして話を聞いていた。

「トレーナーさん……このオースティン選手みたいな筋肉の人は多分譲らないと思うよ……本当にやるんですか……?」

 どうやら話終わったようだ。ウマ娘は不安そうな表情だったのは気になるが。

 なにはともあれ、改まって向き直った男は曇りなき眼で見つめてきたので、どうやら腹が決まったのだろう。男はゆっくりと口を開き、喋り出した。

「店員さん。やや激しめのうまぴょいでいいのでもう少し安くなりませんか?」

「無理にぃ決まってるだろぉぉぉ!?」


 しまった、つい全力の怒鳴り声で返してしまった。後悔時すでに遅し。夫婦のお客様はドン引きして椅子ごと後退りしている。完全にやらかしてしまったぁ!

 別室から店長も慌ててやって来たし、割と面倒な事態になった。まあ、無理なものは無理だし俺は悪くない!

「どうしたのよ筋肉君。挨拶以外でいきなり大きな声だして。申し訳ございませんお客様。うちの者がご迷惑を……」

「店長……」

「筋肉君。何があったのか説明して?」

「そのですね……こちらのお客様が激しめのうまぴょい……いや、人間表現だと激しめの<(自主規制)>をしても大丈夫な物件を紹介してくれと」

「そんな部屋あるわけねえだろ!?」


 このあと、シュヴァルグランというウマ娘とその元トレーナーだという男は、店長によって追い出された。