ハロウィン。東京の中心部で仮装したり、呪霊共が百鬼夜行したり、民衆が車をひっくり返したりするパーリーピーポーでデリシャスな祭りだ。
プルルルル……ピッ。
「お前どこに居るんだよ」
「パーマートレか。3連単成立しそうな位置にいて、いいところなんだから邪魔すんな」
「今日は何の日か忘れたのか? ヘリオスも探してたぞ?」
「うっぜえなぁ。今日はハロウィンだから、どうせヘリオスも仮装で際どいもん着てるんだろ? いかにも襲ってきてくださいなって感じの……まあ、俺は今競艇場だ」
「今すぐ帰ってこい。お前の愛しのヘリオスが待ってるぞ」
「軍資金全額パーになったから歩いて帰るわ」ピッ
「また負けたのかあいつ……」
かのトレセンではトレーナーの鋼の意志が試される日でもある。昨年は散々な結果に終わった雪辱、今年こそ耐え切ってみせる。そう意気込んでいたのだけど……
「お菓子無しのイタズラで膝枕するよ〜!」
すまないヘリオストレ。俺は一足先に陥落した。悪魔パーマーには逆らえない。逆らわない。逆らう気力は無い。逆らう気も無い。
◇ヘリオス視点
いつもの調子で突撃トリックオアトリートかまして部屋に入ったら、パマちんがパマちんのトレぴを膝に寝かせて好きピしていた。
しまったと思った。うっかりズッ友の恋愛空間に入ってしまったから。トレーナー室を誰が使ってるのか確認してなかったウチが悪いだろう。
パマちんは石のように固まって動かなくなっていた。膝枕状態だったトレーナーはやれやれと頭をかきながら立ち上がり、冷蔵庫の戸を開ける。
「あらら、ヘリオスじゃあないか。ちょっと待っててなお菓子をやろう」
「トレーナートレーナー。さっきお菓子無いって言ってなかった?」
「僕はパーマーにイタズラされたいからね」
パマちんとそのトレーナーの会話を聞いて大体ことの顛末を悟った。さっきの膝枕ってイタズラだったんだ。ウチも真似しようかな。
「あっ! そういえばトレぴにまだトリックオアトリートしてなかったじゃん! とりまウチもトレピにブラりに行くっしゃないっしょ☆」
……そう言った手前だけど、今日ウチはトレぴを見ていない。なのでお菓子貰うついでにパマちんのトレーナーに所在を聞いてみることにした。
とたんに深いため息を吐くパマちんのトレーナー。膝からむくりと顔を上げ、うちを憐れみの眼でガン見してきたトレーナーは、ぽつりぽつりと語りだした。
「ヘリオスのトレーナーはハロウィンなのにギャンブルで金を減らしてる」
◇
「あいつ、軍資金使い果たしたから歩いて帰るらしい。行く前に『金を増やすのさ』と言ってたのにあの自信はどっから湧いてくるのかさっぱり分からん。あのダメ人間は」
パマちんの膝枕に顔を埋めながら喋っているこのトレーナーも、側から見たら大分やばたんだと思う。ここが婚約会場学園だから許されてるけど、世間一般的にエグチ。
「誰がダメ人間だって? 担当の膝を堪能してるてめえが言える立場かよ」
「その声は、トレぴ☆バビッてよいしょ丸じゃん!」
パマちんトレーナーが電話をかけて数分でトレぴが学園に舞い戻ってきた。
反射的にウチは、バカでかい身体をしたトレぴに飛びついた。トレぴは呆れ笑いを浮かべながらも引き剥がすことはせず、パーマートレを見てこう言った。
「ふーん、二人とも相変わらずイカした衣装着てんなぁ。それはそれとして、パーマートレは今何やってんの?」
ウチはチラッとパマちん達を見る。パマちんはどこぞのでちゅねママになっていて、そのトレーナーは赤ちゃん語しか話さなくなっていた。
「えっとねトレぴ。うん。パマちんによると、とりま赤ちゃんプレイ中」
「あーね……そっとしてやろう。こいつは鋼の意志を破壊されて抜け殻となった成れの果てだ。困ったな、金を貸してもらいたかったが、仕方ない」
「ウチが貸してあげるよ☆」
「てめえのようなガキに乞食になるほど俺は落ちぶれてねぇよ。次はパチンコかトレーナー業で一発当てるさ」
「トレーナー業ならウチの力も必要じゃ〜ん! バイブステンアゲでレースブチ釜水産☆ ウェーイ!」
バタンッ
「嵐のように帰っちゃった。ていうか、もしかしてヘリオスってヒモ男に捕まるタイプ……?」
「パーマーママ……バブぅ……」