シュヴァル「ナメクジ?」トレーナー「UMAじゃね?」
地方ローカル釣り番組に出演したシュヴァルグランとそのトレーナー。
彼らは今回の釣り場、海上釣り堀にて不思議な体験をすることになったのだった……
「撮影機材のトラブルで一時間休憩らしいよー」
「そうなんですね……」
「ま、ちょうどいい機会だし生き餌でも買ってこようと思ってるけど、シュヴァルもついてくる?」
「そ、それじゃ僕も……お供します」
◇餌売り場。
「ト、トレーナーさん……なんか、鹿が彷徨いてるんですけど」
「ああ、多分人里で食べ物探しにきたんだろ。ていうか田舎だと野生の鹿も降りてくるんだなぁ。警戒心ないやん」
「とりあえず買ってきますね……」
「え? シュヴァルが買いに行くの?」
シュヴァルグランは柄にもなく一人で生き餌を買いに向かっていった。彼女は番組出演という慣れない環境下で知らないうちにおかしくなっていたのだ。
「て、店員さん……こ、これってほ、本当に、む、虫ですか?」
「そうよ、そうそうワームとかミミズ大量に入れといたからね!」
「で、でも……なんか一匹だけ、大きくないですか?」
「ん、お嬢ちゃんが言ってるのってこの子のことね? シノノケっていう珍しい虫だから大丈夫」
「いやいやいや……虫じゃないよね?」
「喰いつきもいいのよこの子!」
「は、はぁ……」
シノノケは寝袋くらいの大きさで、ナメクジや芋虫に似た体型をしている。身体中にはヤマアラシのような長い針が覆っており、顔には円形の口とナメクジのように伸びた三個の目があった。
シュヴァルグランは例の虫をトレーナーに見せたが、当然の如く拒絶反応を示した。
「気持ち悪ッ! なんだこのへんちくりん!?」
「ナメクジ? いやでも……見たことないや」
「UMA? いやそんなわけないか」
「な、なんにせよ釣りの生き餌には使えそう……だよね?」
「う、ウーン? いやぁ……ヤマアラシみたいな棘が無数にあるし、多分魚側が食いつかないと思うよ?」
シュヴァルグランはもっと近くで観察しようと、シシノケを手のひらに乗せた。しかし、粘膜で覆われていたのかシシノケは手のひらをすり抜けて落ちてしまった。
シシノケは虫らしからぬ速さで鹿へと迫っていき……
その瞬間、シシノケは巨大化して目の前にいた鹿を捕食した。音もなく丸呑みしたのだ。
それを呆然と眺めていたシュヴァルグランとトレーナーはシシノケから爆逃げかました。
「うわぁぁぁぁぁ!!!?」ダダダダダダ
「ワッ……アッ……アバババババッ!?」ズドドドドドドドドドド
「バカ! シュヴァルのバカッ! なんであんな化け物を生き餌にするとか抜かしたんだこのバカッ!?!?」ダダダダダダダダダ
「店員さんにおすすめされて断れなかったんですよ! そんなのっ!!」ダダダダダダダダダ
「まだ追いかけてきてるんだよな!?」ダダダダダダダ
「ヒィィィィ!? 追いかけてきてるぅっ!」ダダダダダダダ
「あっ、そうだ!」ダダダダダダダ
「どうしたシュヴァル! 何か妙案でも思いついたか!」ダダダダダダダ
「ハロフィン用の洋菓子渡し忘れてました。えへへ……よかったら食べてください」ダダダダダダダ
「今渡されても……よし、化け物の撒き餌にするわ」ポイーダダダダダダダポイー
「な、な、何やってるんですか〜!?」ポカポカポカ
「やめろ、ウマ娘のパワーでポカポカするな! 自分はまだ死にたくない!」ダダダダダダダ
「こんの……ニブチ〜ンがぁ!?」ポカポカポカ
「くそッ、あああああ足が悲鳴あげてるゥゥゥ! もぅぅぅぅぅぅ……!」ダダダ、ダダダダ……
「こうなるんだったら昨日にでもトレーナーさんを襲っとけばよかったんだ」(掛かり)ダダダダダダダ
「あらら自分、命の他に貞操の危機も抱えてる感じかこれ……いやそれどころじゃねぇ!!?」ダダ……
「もう終わりだよトレーナーさん……僕達どうせ触手で蹂躙されて<=自主規制=>で気絶した後、ゆっくりと食べられる運命なんだ」ダダダダダダダ
「ネガティブセルフ性癖開示やめろい! とにかく行きで乗ってきたバイクでずらかるぞ! 後ろ乗りな!」ダダダダダキキィー! ズババババ……
この、フォーク固執人見知り釣り師ウマ娘は年中ミミズを触っているくらいだから、虫程度では発狂せぬ。
トレーナーも、自宅のゴキブリを油で揚げて庭に放り投げるくらいだから、こちらも耐性あり。
ならば、この二人は一体なぜ芋虫みたいな生物から逃げているのか。流石に両者共、巨大化した虫には耐性は無かったからだ。
ただ、肝心のシシノケは鹿の消化に手間取って動けなくなってしまった。人畜無害である。
……この二人、果たして逃げる必要があるのか?
私にも、分からない………
珍