◇とある河川敷にて。
「伝家の宝刀、大魔神フォーク!」ズパッ!
「おお〜! この落差大きい変化球はまさしく全盛期永川勝浩のフォークだ!」
「これは僕のお父さん直伝のフォークです! はぁ……トレーナーさんの目は節穴ですか?」
「節穴なのはシュヴァルだろ。あれは紛れもなく永川フォークだ」
「……どうしても永川投手のフォークだと言い張るつもりなんだね? トレーナーさん?」
「ていうかさ、今までカープファンとして永川劇場を見続けてきたぼくの選球眼を舐めてもらったら困る。そもそもだ。少なくとも、シュヴァルが投げたフォークは大魔神のやつじゃあないぞ」
カッチーン!
僕は頭の中で感情がカッとなり、柄にもなく静観していたトレーナーさんに一打席勝負を挑んだ。僕が勝ったら永川フォークという発言を取り消してもらうという条件で。
「永川投手も確かに落ちるフォークだけど、大魔神は質とかコクが違うから。トレーナーさんには悪いけど大魔神のコクと自慢のフォークでわからせる!」
「よっしゃ、なら。自分がもしこの打席でヒット打ったら明日にでもシュヴァルにぼくが選んだ可愛い服着てもらおう!」
「……えっ? い、いやいや待って? ト、トレーナーさん……今なんて言ったの?」
「久しぶりだなこの感じ。バット持つのも部活動に馴染めなくて中学校早々に辞めた以来だ」
はい、僕負けられなくなりました。負けたらトレーナーさんによって明日ゴスロリ服を着せられてしまうらしいです。求められてるのは嬉しいけど、それとこれとは別問題。僕が恥ずかしさで溶ける。
「なんでさ、ここで青いオーラ出すかな。レースに温存しとけ?」
「いや、全力でいかないと失礼だから。いくよ……トレーナーさん!」
「こい!」
◇トレーナーVSシュヴァルグラン一打席勝負開幕。
初球、僕の渾身の内角ストレートをトレーナーさんはフルスイングで答えてきた。スイングで周辺に砂埃が舞う。
これは……バットに当たったら簡単にアーチスト弾道でボールが吹っ飛んでいきそうだ。トレーナーさん、パワーだけならウマ娘に負けてないし。
次は見せ球でフォークを投げてみる。トレーナーさんは微動だにせず見送り、カウントはワンボールワンストライク。
ストレート待ちかな? 配球を間違えたりしなければ……勝てる、勝てるんだ。
◇その刹那、シュヴァルグランの脳内に存在しない記憶が流れ込んできた。それは横浜VSオリックス9回裏3点差の場面、ワンアウト満塁でバッターは歴戦の大ベテラン清原。
◇暫時、唖然としていたシュヴァルグランだったが、全てを理解した時、彼女の心は暗黒に包まれた。『打たれる……この流れは……見たことある』何処からか流れてくるオリックス時代の清原応援歌。彼女の目に光る涙は喜びとは無縁のものだった……
◇そしてシュヴァルグランはトレーナーと清原の面影が重なって見えた。そして、甘い球投げたらピンボールみたいに飛ばされてしまうと彼女は本能で悟った。
フォークはダメだ。今の僕じゃお父さんみたいなフォークは投げれない。なら、球威でゴリ押すのみ!
「僕の、本気のストレートでトレーナーさんのバットをへし折ってやる」
トレーナーさんに全身全霊を、140 km/h後半のストレート!
ああっ、球威は十分だった。だけどコントロールミスでボールはど真ん中に吸い寄せられていき、トレーナーさんのバットとゴッツンコ。
無常にも弾き返されたボールはアーチスト弾道を描きながら右に飛んでいき、文句なしのホームランだった。
◇ 翌日、トレーナー室でフリフリな可愛い服を着ながら冷たくなっているシュヴァルグランが発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。
. 終
. 制作・著作
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