キタサンブラックが事後報告地方出張置き手紙を見て絶望する話〜一方その頃トレーナーはデジタルと遭遇していた
ピクニックで山に来たあたし達は目的地のため道幅が狭くなっている崖の上を歩いていた。
するとトレーナーさんが足を滑らせたのか滑るように崖から落ちた。あたしは間一髪トレーナーさんの右手を掴んで完全に落ちるのを阻止したのだが、それと同時にトレーナーさんの体重があたしの右手にのしかかる。ウマ娘と言えど流石に重たいが気合いで耐える!
あたしの見事なファインプレーでトレーナーさんの今すぐの転落は免れたが、一度手を離したら一瞬で落ちてしまう状態で未だ予断を許さない。そんな状況になってしまった。
「キタちゃん、今すぐ僕の右手を離すんだ! 君も落ちてしまうぞ! 犠牲になるのは僕だけでいい!」
「ダメです……トレーナーさんが落ちちゃったらあたしもここを飛び降りますよ……」グググググッ
「はははっ……それは嫌だなぁ。僕はただのトレーナーだよ?」
トレーナーさんはそう自嘲し、そして何かを噛み締めるかのように私達の思い出を語り出した。
「……この3年間、あっという間だったなぁ。キタちゃんと歩んできた日々は最初は散々に終わって、活躍しだしてからも世間からは壊し屋と呼ばれたこともあったね。キタちゃんは壊し屋という別称を付けられたくないと、いつだったかそう言ってたけど僕は今でも気に入ってるんだ。この別称を付けられたということは、初めて世間一般に認められたという証だと思うしね」
「1人走馬灯に入り浸らないでください! やるならあたしと一緒に共有わっしょいして天寿を全うする前にやりましょうよぉ!」
「ねぇ。キタちゃんとそのトレーナー。さっきから何やってるのさこれ?」
はぁ……いい雰囲気だったのに突然誰かの横槍が入った。これに乗じていい雰囲気に持って行こうとしてたのに。おそらくトレーナーさんの下にいる空気の読めないおバカさんは誰だ? いや待てよこの声どっかで聞き覚えが……
「おう、飛んで火に入る夏のテイオーじゃないか。そうそう、実はな崖から滑り落ちちゃった所をキタちゃんに助けてもらってる最中なんだ」
「崖と言ってもさ。この崖せいぜい3m程度しかないよ? いくら人間であるトレーナーでも普通に怪我無しで降りれるでしょ」
◇トウカイテイオーは大人なら普通に降りることが出来る崖なのに、あたかもどっかのドラマみたいにトレーナーの腕を掴んで落ちないようにしてる赤面状態のキタサンブラックを呆れながら見上げていた。
◇そしてテイオーの目の前にはキタサントレーナーが特に危機感無くキタサンに身を委ねてぶら下がっている。なんなら何事も無いかのようにテイオーに話しかけていたりする。
◇キタサンは憧れの人であるテイオーにこんな現場を見られたことで羞恥心が芽生えていた。吊り橋効果を確かめるためとかそれっぽい理由を語って、わざわざトレーナーさんに崖から落ちる芝居を打ってもらった記憶が頭をよぎり、ほどなく弁明タイムとあいなった。
「あっ、ハハっテイオーさん!? そうだ、ちょうどいい所に来ましたね! せっかくですしテイオーさんも『崖から落ちそうになった人の腕を掴んで引き上げる』という遊びやりましょう!」(赤面ヤケクソ)
「なにその遊び。ボクもやりたい!」