倒れたトレーナーが車輪の付いた担架で運ばれるそんな一幕
◇病院内
「走れぇぇぇ! ウマ娘の有象無象共に負けないぐらい速く走れ! 患者はあの、シュヴァルグランのトレーナーだぞ!」
「先生ピッピ、治療室は逆方向なんだけど」
僕は医者さんとゴールドシップさんに瓜二つな看護師と一緒にトレーナーさんを担架で運んでいた。授業間の休憩中にトレーナー室へと足を運んだら、トレーナーさんが床に倒れていたのだ。運ばれている今もトレーナーさんの意識は無い。
なんで、今朝までは元気だったのに……
「午前10時59分、臨終してない」
居ても立っても居られなかった僕は救急車へ無理矢理乗り込み、こうして担架を運ぶ手伝いをしているのだが、さっきから医者さんの発言が紛らわしくて困る。臨終ってことばは普通、死んだ時に使うものだから。トレーナーさんは死なせないけど(半ギレ)
「○月○日午前10時61分。脈正常値、酸素濃度正常値、まだ臨終してない」
「いちいち必要かそれ?」
「走れぇぇぇ! もう少しの辛抱だ! もっとスピード上げろぉ、生前葬だ!」
「先生ピッピ、治療室は逆方向なんだけど。さっきからどこに向かってんだ? ゴルシちゃんわかんねぇ」
「うるっせぇなぁ! バイトは黙ってろ!」
「え……ここの病院って、看護師バイトなんですか……? いや、それより……バイトに緊急外来担当させてるの……?」
トレーナーさんを運んでるそんな中、医者の人が携帯している携帯電話に通知が入り、それを医者は取った!
「あ、レースの開幕DESU!!!」
「……え?」
「今からマキシマムインパクトが出る与那国国杯の配信があるんだよ! 患者よりインパクトちゃん! 命なんてクソ喰らえ!」
「アンタに人の心とか無いんか?」
なんてことだ、医者の人は携帯という名のガラケーに夢中となり、担架を放棄しだしたではないか。ガラケーからは、ウマ娘のレースが始まる前に流れる挿入歌が流れてくる。
するとその音楽に刺激されたのか、トレーナーさんがゆっくりと目を覚ました!
「ああ……ライバルのレース映像を見ていたらいつのまにか寝ていたようだ。フォームやレース運びの癖とかを観察してたのに」
「目を覚ましやがりましたね。おめでとうございます退院です。ご来店、ありがとうございました」
医者はそう言って、担架を思いっきり前方へと押した。車輪はキリキリと音を上げる。ゴールドシップさんは変な玉を取り出している。
制御を失ったトレーナーさんを乗せている担架は下り坂でどんどんスピードを上げて、3階の窓を突き破り転落していった。
「ト、トレーナーさん!?」
僕はすぐに窓から見下げると、トレーナーさんはゴルシ玉に乗っており、無事だった。その後トレーナーさんは、過労で倒れた罪で今日明日仕事禁止の令が学園から通達された。