魚が釣れないそんな日。シュヴァルグラン釣りの一コマ
今日は釣れない日なのだろう。糸を水面へ垂らして一時間。未だ僕のバケツは空だった。
それでもさざ波の海、スズメの囀り、静かな釣り場。側から見たら恐ろしく静かな空間だろうけど、僕にとっては心地いい空間で……
まったりゆっくり、こんな日もいいかなと思う。
しばらくするとスマホにある通知が来た。トレーナーさんからのLINEだ。内容は、ゴールドシップさんとアグネスタキオンさんに追い回されてるから遅れるというものだった。
何をしたらある意味学園最強な二人を敵に回せるのだろうと考えるのはさておき、まだ釣り糸に変化は無い。
一回釣り糸を回収し、偶々隣で釣りをしていたセイウンスカイさんに目を見ると……
「スカイさん……?」
肘ツキ横寝しながら竿を握っているセイウンスカイさんは、鼻提灯を出してスヤスヤと眠っていた。
思えばセイウンスカイさんには、まだ僕自身レースで結果を残せてなかった頃から世話になった。この釣り場で初めて出会って、色んな悩みを聞いてくれて。
◇
『……いいんですよ、急がなくても』
『えっ?』
『……勿論危機感は持つことは必要だよぉ〜? でもね、自分のペースで行くことも大事。釣りと同じでさ、色んな仕掛けをして情報を集めて……最後に勝てばいいんだから』
◇
感謝しても仕切れない恩人な先輩だ。少しづつ善戦というか、先頭に喰らいつけてるのも先輩のお陰でもある。まあ、それは別として……
「あの、ここで寝てたら風邪ひきますよ……?」
浜風で風邪引いたらなのでセイウンスカイさんは起こすんだけど。
セイウンスカイさんを引き摺って運んでいる途中に、再びスマホのLINEが動いた。内容は『ゴルシを十字架に貼り付けた関東野菜連合と仲良くなったので、もう数分で着きます』というもの。トレーナーさんは何に巻き込まれてるのだろう?
そうこうしてるうちにトレーナーさんが釣り場へとやってきた。トレーナーさんの背後には、リーダーのニンジンが配下のピーマン達に命じられゴールドシップさんの貼り付けを解いている光景が見えたが、見なかったことにしようと思う。
いや出来ないごめん気になる。
「遅れてごめんシュヴァル。せっかくの釣り日和だったのに」
「え、えっと……遅れたのは別に気にして無いですけど……何があったんですか……?」
「何がって……ああ、そういうことね。事の発端は、野菜達に自我を持たせる薬をタキオンがぼくへ手渡してきたことに始まるんだ」
そうしてトレーナーさんの身に起きた話を、僕は釣りをしながら聞いた。ニンジンが3メガネでクラウンさんに勝負を挑んだという部分だけは、半分くらいしか内容が分からなかったけど、なんとなく面白かった。
魚は相変わらず釣れなかったものの、今日はそういう日なのだろう。トレーナーさんと釣りという時間を共有出来て、楽しくて、そんな空間が心地よかった。それで充分だろう。