「たまには夜の散歩も風情を感じれていいなぁ」
「そうねえ……あっ。今日は満月じゃない!」
「ああ、本当だ」
「月が綺麗じゃない」
「え? そうかな?」
「あ、あれ? もしかしてピンと来てないのかしら? 一世一代の大勝負に出たのにそんな……」
「んー? 俺的には月が綺麗に見えるけど……風情を感じれるし、月もいつか壊れて星屑になる儚さっていうかね。まあ、悪いもんでもないよ」
「待って待って、トレーナーは少し誤解をしているわね。私は月が綺麗じゃないと言いたかったわけではないの。だって満月よ満月! ああもう、言い方を変えるわ。月が綺麗ねぇ……トレーナー」
「もしかして『月が綺麗じゃない』の発言はクラウン的に月を卑下してる訳じゃなくて、夏目漱石のやつの……ああなるほどやっと理解した」
「……我喜歡你(あなたのことが好きです)」
「直球になっちゃったなぁ……」
「……忘れなさい」
「忘れんよ。どのみちサトノ家に催促されてる身だし。少しだけ時期が早まっただけさ」
そう言ったトレーナーはサトノクラウンに『月が綺麗』の返事を返した。途端にぷしゅーと顔から湯気を出してオロオロしだすサトノクラウン。こうして今宵、一組のカップルが産声を上げたのである。
「……でもさ」
「どうしたのかしら?」
「……考えたら、今日ってさ」
「うん」
「新月、だよな……」
「……え?」
「……ほら。スマホの情報によるとこの時期じゃ月は見れないって書いてあるし」
「確かに時期的にも新月……じゃ、じゃあ、あの月は、一体ッ……!?」
「い、いや……俺にも、何が何だか……」
「あ」
「……え?」
二人が、月だと思っていたもの。
それは、空を覆い尽くすほどに巨大な、
とてつもなく巨大な異形の瞳。
「なんかは知らんが風情の邪魔だしロケランで吹き飛ばしとくか」
「トレーナー。念の為サトノ家御用達の空軍を用意したわ。軍艦から戦車で跡形もなく消し飛ばすわよ!」
最早、お月見どころではない。
淵きの巨悪にして災厄。
旧支配者。ゴールドシップと手を組み、世界をハジケリストにするため今宵現世に顕現する……