グランのアトリエ〜常黒のクラウンと秘密の研究所
シュヴァルグランは釣りと野球観戦という趣味の他に、最近絵を描き始めた。
きっかけなんてものは無い。興味本位で絵を描いてたらいつのまにか魅力にハマっていただけなのだ。
ちなみに絵の内容はというと、ほとんどがトレーナーの顔である。何故か無意識に描いてしまうらしい。
「いい絵だねぇ。うん、なんか俺すごく美化されてる」
「ありがとうございます……」
「ていうか何枚も同じモデル使ってて飽きない? もう今更感あるけども」
趣味が増えたこと以外は至って変わらない日常。そんな日常を2人は心地よく思いながら今日が過ぎていく。
サトノクラウンは虫になりたかった。特に蜂になりたかった。なぜかと言うと彼女のトレーナーの実家は養蜂家だったからだ。
蜂になればトレーナーとの愛を一心に浴びることができる。その考えに至るにまでに時間はかからなかった。
「でも、蜂になるにはどうしたら」
そこで彼女が思いついたのはVR空間の中で擬似的に蜂になることであった。蜂になるにはまず蜂の気持ちを理解しなければならないと感じたらしい。
決断した彼女は早かった。サトノ家直々極秘研究所の元、専用のVR装置を作らせたのだ。
危険は無いか確かめる実験で1人の科学者が蜂落ちして命を散らしたが。実験に犠牲はつきものだ。残念だが。
後に実験の責任者が遺族に謝罪したという。
「家の圧力とか環境のせいじゃなくて俺が悪いんだよ。お前の息子さんが蜂に食われたのは俺のせいだ! もう……嫌なんだ自分が……俺を……殺してくれ。もう、消えたい……」
紆余曲折あったが無事にクラウンは蜂になった。蜂になった彼女は優雅な蜂生を堪能した後、役目を終えたVR装置は数年に渡り放置された。次第に忘れ去られVR装置は自分が生まれてきた意味を自問自答することになり。
そして科学者の亡霊とVR装置が手を組み融合して人類を脅かす存在に変わったのである。VRの巨人に。